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道端のちゃんぽん

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「あんた、大丈夫か?」
 ――気を失っていたようだ。眼を覚ますと、私は寂びれた廃墟のカウンターで寝込んでいた。私に声を掛けたのは、七十過ぎ程の老父であった。
「え、あ、何を……」
 確かここで飯を食ってて、その飯が……。
「ここの店主はっ! え、あ、どういうっ?」
「お前さん、もしかして化かされたんじゃないんか?」
「化か、され?」
「この辺には狸がよお出る。ワシも化かされた口でな、飯が蛆に見えたんよ」
 そう言って、老父は笑った。
「ちょこっと人間を化かして、気ぃ失ってるうちに食いもんやら小銭をちょろまかしたりするんよ。それ以外にはなんも悪いことはせん」
「え、ウソっ!」
 私は急いでバックパックの中身を見る。
 ……やられた。保存食をごっそり持ってかれた。
「諦めな。化け狸相手じゃ人の法は通用せんのだから」
「う、うぐぐ……」
 ここ数日分の野営食だ。諦めきれない。
「昔は人間がやったことはきゃつらの仕業にされたもんだが、今じゃあ逆やけんね。だけんど、飯や小銭を掻っ攫うだけならまだ可愛らしいもんよ」
 そう言って、老父は笑う。
 確かに高額紙幣をやられたわけでもなし、諦めきれないわけでもない。
 しかし、狸に化かされるというのも中々珍しい体験ではある。何を食わされたのか結局分からないが、まさかホントにアレだったわけじゃないよな?
 ふと、あの狸親父が言っていたことが脳裏を掠める。
「すみませんが、この辺ってよくタヌキが轢かれたりしてるんですか?」
「ん? ああ、よう車に轢かれちょる。気の毒なもんじゃがね」
 そう老父は言った。
 動物注意、か。その標識のタヌキは嘲笑っていたのかそれとも咽び泣いていたのか、私はついぞ思い出すことができなかった。
作品名:道端のちゃんぽん 作家名:最中の中