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小渕茉莉絵
小渕茉莉絵
novelistID. 40515
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最後に笑うのは誰だ―6

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土屋家本山・属魔法練習場

「はっ」
「流石です、朱音お嬢様。」
「やめてってば、冴子さん。」

健太郎、本家・母屋に現る事件から一週間。体力も衰弱した朱音は、属魔法の練習も兼ねて道場に通っていた。
正確には“属魔法練習場”。入れるのは属魔法を使える本家、第二本家、第三本家の人間と、その家の執事、侍女だけだ。ちなみに“第二本家”云々というのは、本家と“どれだけ血が近いか”による。例えば、本家の娘と結婚した分家は格上げされて“第二本家”と呼ばれ、更にその第二本家と結婚した分家は“第三本家”と呼ばれる。当の本人たちは当然のように知っているが、関係のない普通の土屋家の人間には分かりづらいシステムだ。
朱音は、第三本家の出である。

「本当に質も強さも、土屋の女性の誰よりも勝ってらっしゃいます。第三本家の男性なら、勝てるのではないかしら。」
「冴子さんが言うなら、そうなのかな。」

彼女は属魔法の指導者――インストラクターと言うべきか――の、土屋冴子。指導者も分家と同じように血で受け継がれていく。ただし他の分家と違って血の近さはなく、“属魔法の分家”として血をつないできた。
今は、女性担当の・冴子と、男性担当の弟・潤一が継いでいる。

「でも……強くても、嬉しくないよ。」
「?」
「大切な人を守りたくて……寝る間も惜しんで力の練習して、ここまで来たけどね。実際には守れないどころか、助けてもらっちゃった。」
「……流星様のこと?」

健太郎も言っていた通り、本来、流星と朱音は結婚できない。本来なら、付き合うことも出来ない。いくら朱音が第三分家だとしても、相手は次期当主。どんなに本家に別の血が混ざっていようとも、第二まで。付き合っているのが不思議なぐらいだ。逆に言うと、それだけ朱音は、一般女性にしても、土屋家にしても、優秀だと言える。

「大変でしたね。でも、あの流星様が“人を助ける”なんてことが出来るようになったのは、朱音お嬢様の影響じゃないですか。」
「?私の?」

『我が憎き姉の、か弱き息子よ!ここで死ぬのだ!』

「あっ……ご、御免なさい、お嬢様。お忘れになって……」
「っ……!」

朱音の能が、真っ白になる。浮かんでくるのは言葉たち。散り散りに分かれた、言葉たち。

『うわああああ!』
『だめええ!』

「何……?私?幼いころの私……」

『わたしは、りゅうせいさまを、お守りするために、生まれたんだもん!』
『ちっ、下衆の小娘が。そこをどけ!そんな血も涙もないガキのために、命を落とすか!』
『それが、わたしの生きる理由です!みち様!』

「み、ち、さま……?」

そう言うと朱音の膝はヘナヘナと崩れ、ついには膝で立つようになる。両手で頭を抱え、目は虚ろ。冴子が声をかけても反応はない。それは閻魔に跪き、生を願う者のよう。

『そうだよね』
「そうだよ。」
「!」

急に道場の門が開いたかと思うと、そこに立っていたのはスーツの青年。スラリと長く伸びた足に、夜の職業に就くような感じの茶髪の髪。落ち着いて見てみると健太郎のようだが、何かが違う。
健太郎より、オーラが強い。

「あの事件以来、流星と朱音から俺の記憶は抜かれてしまった。代わりに何故か俺には、人の夢を盗む……そうだな、アビリティっつーの?そういうのがついた。今、その脳の忌々しいキーを外してやるよ、朱音サン。」

青年がパチンと、手品師のように指を鳴らすと、朱音の目が橙に染まり、軽く「あっ」と声を出した。

「あなたは……」
「そうさ。あんたと同じく流星を守るために育てられようとなったが、ある理由で恵知から除外された、カワイソウな人間……土屋英(つちやえい)さ。」



「土屋英……?」
「そうさ、朱音。思い出したかい?」


朱音は、自分の脳が、恐ろしい速さで掘り起こされている気がした。気持ちが悪い。脳みそが揺れている感じだ。冴子に支えられたその体は冷たく、嫌な汗をかいている。

「英君……お久しぶりね。」
「ああ冴子さん。潤一さんに言っといてください。“英は、こんなに立派になりました”と。」
「なぜ、ここにいるの?」

クスリと笑い、カタカタ震える朱音の額に手をかざすと、白い光が優しく灯り、そして消えた。

“光の治癒”

「何をしたの?」
「朱音の精神ストレスを消した。起きたら、もう大丈夫さ。一応、同門だしねぇ。」
「……脱走したって聞いたけど……」
「そう。時期を見てた。」

携帯を取り出した英は、ほっそりとした指でメールを打った。メールをうつ動きも早い。そしてそれをしまい、臨戦態勢の冴子に体を向ける。メールに専念しながらも、常にアンテナを張っているのだ。
属魔法の強さを垣間見る瞬間である。もちろん流星や朱音にもある能力だが、英は格が違う。冴子は、死ぬ覚悟を決めた。

「大丈夫さ、冴子さん。あんたを殺したりはしないし、その気が合ってもあんたは俺には勝てない。」
「確かに、最後に見た時より、数段強くなっているみたいね。でも、それは朱音お嬢様も流星様も一緒よ。」
「……朱音に、一応教えてやりな。忌まわしい土屋家の、コアに眠る真実をね。それが、知るものの務めだ。」


『忌々しい子供……!すぐにでも殺してしまえばいいのに!』
『やめないか……流星たちが見ている。』
『貴方の責任でしょう!流星坊ちゃまたちには、記憶隠蔽をすればいいだけのこと……それより、こんな子供を作るなんて!旦那様!』
『まあ、お待ちなさい。』


「……闇の子供。一番の被害者よね……」
「ん……」
「朱音お嬢様!」
「あれ、私……」

あれから一時間。冴子が物思いにふけっていると、朱音が目を覚ました。
体の様子は戻っていて、いたって健康そう。
それを見ると、最後に属魔法を使った英が、以外にも優しいところもあるわね、と思いもした。

「お体は大丈夫ですか?」
「うん……あ、英!英は……」
「……帰ったわ。」
「ねぇ、教えて冴子さん!私、私……子供のころ、英と会ってる!だから、知る資格がある。」

冴子は目をそらし、一瞬考えると、覚悟を決めて朱音に向き直った。


「聞いて、後悔しない?」
「ええ。」
「じゃあ……英、土屋英は……」

―御当主・葵さまの、隠し子よ。



「隠し子……だと?」
「ええ。」

夜。本家・離れ。流星の住まい。
英の情報捜索のため、蔵を探したのか埃にまみれている流星は、寝るための着物に着替えた。本当なら、お付きのものが手伝うはずなのだが、状況が状況。朱音の知ったヒミツの話があるので、今は朱音が手伝っている。

「冴子さんから……聞いたわ。」


昼間のことを、回想する―――


「社長の……隠し子?」
「……貴方たち……流星坊ちゃまやお嬢様、健太郎様が生まれたあの年……英は生まれたの。」
「同い年……」

朱音は拳を握り締める。夢で出てきた英と思われる少年は、確かに自分たちと同じような少年だった。普通は薄れてしまうのに、話を聞くたび鮮明になってくる、子供のころの記憶。少し、恐怖を感じられた。