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理想と現実(what the hell?)

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ユートピア


外壁にもたれ市場を眺めているのは異国の男である。ここはユートピアと名高き街だ。しかし住民の幸福度は低迷している。
そこである国からその原因を探るため彼が使わされた。その事はこの街には知らされていない。ただの観光客扱いである。
 ここに引っ越し住むのは難しい。物価は高いし空きも殆どないからだ。
彼は朝から市場近くの壁にもたれ人々を観察した。別段国からやり方を指示されているわけではいない。 故に彼は彼のまま気ままに調べることにした。
ユートピアと呼ばれるだけあり人々はにこやかに笑い辺りには安穏とした空気に満ちている。
 売る人も買う人も幸せそうである。
 彼にはいまいち何かを掴むことはできなかった。
 それで市場を眺めるのを止め歩き回ることにした。 ここはユートピアなのだ。やはり幸福に決まっているだろう。
・・・・・・決まっている。
決められている・・・・・・? ふと男の頭に浮かんだ考えは今掴めていない何かを引っ掛からせた。
 彼は歩きながら人々を見た。
 例えば脇で談笑に耽る婦人たち。楽しそうである。 しかし、しわがある。勿論当たり前だ。
 男は立ち止まった。
 しかし・・・・・・?
 私はなぜ逆接を使ったのだ?しわ・・・・・・。
 はっと男は我にかえった。突然立ち止まり婦人たちを見つめる男に彼女らは不審がり始めていた。
 それに気づいた男は会釈して早々と歩み去った。
 そうだあれは笑いじわなんかじゃない。何故だろう、ここは楽園である。
 もしかして、と男は訝った。
 男は観察するだけでは足りないと思い酒場へ入った。入るやいなや酔っぱらった男たちが絡んできた。
 いい機会である。
 本音を聞けるのだ。
「よう、兄ちゃん。どこの人だよ。へへへへへ」
不気味に笑う大柄の男は観光客に腕を回した。観光客はとまどうふりをしながら出身を明かした。
「ふうん、そうかそうか。よく知らねぇけど、えれえ遠いんだろ?ゆっくりしてけ、な」
観光客と男たちはまずとりとめのないことを話した。ここからだと観光客は心の中で居住まいを正した。 「あの、変なこと訊きますけど、ここ本当にユートピアですか?」
男たちは笑った。それは嘲笑でも苦笑いでもない、豪快で毒気のない笑いだった。
「なあに、兄ちゃんよそうだな、ここはユートピアだよ。でも皆ハッピー、てわけじゃねぇ」
観光客の疑念がひとつ砕かれた。ここはユートピアだ。そしてそれは幸せとは結び付かない。その二つか明らかとなった。
「それは変ではありませんか?」
男たちはまた笑った。今度も豪快なものだ。
「おいおい兄ちゃん。堅苦しいなあ、ほら飲めよ。」
小柄な男が瓶ごとビールを渡してきて仕振りながらも受け取った。豪快に煽ると男たちは、はやし立てた。
「それで・・・・・・」
 観光客が先を促すと、大柄な男が話し始めた。
 「ああ、ああ、そうだな。かもしれねえ。確かにここにいれば傷つかずにすむ。でもそれだって表面的な話だ。たとえば俺のせがれなんか高校行ってんだけどよ。あいつあそこなんか大嫌いとかぼやきながら通ってんだよな。俺にはその気持ちよく解かるんだ。どこだってそうだろうしな」
 大柄の男は酒を煽った。
 「高校のダチは本当のダチじゃねえってあいつ言っててよ。皆本心隠してよ。
どこかでそれを吐く。それがたまらなく嫌なんだ。ぶつかった方がましだよな。俺の職場の方も同じもんだ。ここじゃあどこもそんな感じかな」
 そして大柄の男は続けた。
 「ここがユートピアだからよ。だから苦しめるのさ。俺のせがれみたいな奴は特にな。ここだからこそ文句が言えねえ、だろ?」
 観光客ははっとした。確かにここは盗人も殴りあいも殆ど起きない。感情の暴走やエゴの突っ走りは皆無だ。
 彼はここの悪いニューズを耳にしたことは無い。平和である。しかし人間的ではないのかもしれない。
 ここがユートピアだとしてユートピアとはいいものなのだろうか。かつて憧れだったこの街の裏側を知り彼は愕然とした。
 生ぬるい。ここは生ぬるいのだ。そしてここの興福度は低いのだ。彼は地元の男たちと飲み終えると外に出た。人々を見ていると彼はいつかを想像してしまった。悪いニュースが起きるときを。彼は身震いした。そしてこの街を後にした。