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理想と現実(what the hell?)

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理想と現実



 二人の若い女性が、今にも崩れそうな石場に立ち、助けを求めている。全方位に逃げ場は無い。先ほど円を描くように崩れてしまい、奈落が姿を表わしてしまった。対岸に男が三人いた。彼らは最初素知らぬ顔で麻雀をやっていたが助ける気になったのか一人がロープを持っている。しかしそれは命を助けたいためではなかった。二人のうち一人の女性が身をくねらせ不埒な言葉を叫んびこうも言った。
 「助けて、助けてくれたら一緒に寝てあげる」
男たちはそれを聞き躍起になった。二人とも美しい女性である。男たちは一緒に寝てくれることを約束した女性を助けようとした。
 もう一人の女性はただ助けてと叫ぶのみだ。
 男たちはこの言葉に反応しなかった。彼らは欲望を満たす条件のため頑張っている。
 人生は甘くないと人は言う。そしてここには欲望をはらんだ男しか助けられる人はいない。
 しかしそれでも女性は助けてと叫び続けている。不埒なことをさけび続ける女性は助けられた。そして石場を脱しようとしたとき自分のためだけのロープを握りこう言った。
 「あんたみたいな奴はだめなのよ。死んじまうんだ!」
 嬉々とした顔で吐き捨てた。取り残される女性は苦悶とした表情を浮かべずにさびしげな顔をした。
 石場はゆっくりでありながら着々と確実に崩れていく。日が沈む前に石場は消滅するだろう。
 助け出された女性は笑みを浮かべて男に抱きつき泣いて見せもした。男たちは満足げに頷いた。その上とうへんぼくな、ヒーロー気分まで催したようだ。
 彼らは残された女性を無視した。女性は死にそうだが彼らは麻雀をまた始めている。そして麻雀をしているだけだ。彼女の苦しみを判るはずもない。
 取り残された女性は自分を貫くように助けを求め続けた。その姿は理想を貫くようで希望を信じるピュアな心そのもののようで勇ましく見えた。
 やがて日が傾向き始め男たちは帰っていった。石場はぎりぎり残っている。取り残された女性は器用に片足で立ち両手でバランスを取っている。声はかすれていたもののまだ助けを叫び続けている。表情は凛々しいもののつらく不安であることだろう。しかし第三者である私にはその苦しみを生々しく感じ取ることはできない。
 光が一筋になったときそこへ一人の男が現れた。一人の女性に気がつくと血相を変えそこら辺に捨てられていたロープを見つけそれでぎりぎりのところで救出できた。崩れることはまず無い大地に降り立って、女性の足は震え膝をついてしまった。表情は一変し安堵とともに泣きじゃくった。
 男は満足げな表情を浮かべず、女性が立ち上がるまで一筋の光をにらんでいた。意志を貫いた女性は何とか助かることができた。