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学校ろーるぷれいんぐ1

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  第一話 「始」

 春のさわやかな陽気から、うっとうしいじめじめとした気候に変わろうとしているこの時期、俺はまためんどくさい朝を迎えようとしていた。
「……うぅん……。」
 目は開けたくなかった。絶対に。理由はただ一つだ。
「アナタ……アサヨ……。」
 くっ……!来たか……!
 嫌だ! 起きないぞ! 今日は仕事だけど、それでも俺は起きない!
「女の子が上に乗ってるのよ……。ちょっとは興奮しなさいよ。」
 こいつ……!
「ネーオキテー。ケンチャーン。」
 あぁダメだ。血管が。
「がぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 切れてしまった。
「きゃっ!」
 勢いよく起き上がると、俺の上に乗っていたそれは前にぶっ飛んだ。
「いてて……。」
 ったくこいつは……。
「いててじゃねぇんだよ! いい加減起こし方どうにかしろ! 俺のさわやかな朝が台無しだろうがっ!!」
 まず勝手に人の家に入ってる時点でおかしいんだが。
「だって健ちゃんこういうの好きなのかなって思って……。」
「好きじゃねぇよ! 誰がロボット喋りが好きって言った!?」
 俺は決してロボットオタクではない。
 はぁ……。目の前にいるのが彼女だなんて思いたくたくなってくるな……。
「うぅ……。じゃあどんなの好きなの?」
「普通のだよ。」
「えぇーおもしろくない!」
「お前の都合は知らん!」
 ていうか今起こし方なんてどうでもいいんだ。早く仕事に行かなければならない。
「ユリオ、朝飯作ってくれた?」
 そう言うと目の前のちっちゃいのは笑顔を見せた。
「作ってない。」
「作ってないんかいっ!」
 じゃあ何だったんだ今の笑顔は。
 あぁもう急がないと。転勤初日で遅刻なんてありえないからな。
「ユリオ!湯沸かして!」
「ハイサ!花村ユリオ、お湯ぅ沸かしまぁす!」
 なんでくりかえした。軍かここは。いや軍でもしないか。
 ふと思ってカーテンを開けると、もうすでに青空が見えていた。
「快晴だな今日は。」
「……くっ……。……あいつは、今日も私を……狙ってるのか……。」
「引きこもりかお前は。」
 沸いたお湯をカップに入れてコーヒーを作り終えたころには、トーストも焼き上がり間近だった。
「………………。」
「………………。」
 ……………チンッ!
「ぽっ!!」
「健ちゃんパンチっ!!」
「いたぁっ!ごめんなさいもう言いませんっ!」
 小学生かこいつは。来年二十歳なのに、そろそろしっかりしてほしいものだ。
「お前は食ってきたのか?」
「うん。今日はね、シュークリームといちごタルトだよ。」
 おえっ。朝から重たいなこいつは。甘党にも程がある。
「私健ちゃん見習って、甘いもの食べるときコーヒー飲もうかなって思うの。」
「なんで?」
「だって健ちゃんとても美味しそうだったから。」
 俺が美味しそうに見えたのか。まぁ言いたいことはわかったけど。
「へぇ。でも俺の場合はコーヒーは甘いものに合うからじゃなくて甘さ押さえるために飲むんだけど。」
「なっ! 世界中の甘いものたちに謝れっ!」
 なんでそうなる。
「よし。ごちそうさま。……じゃ、いってきまーす。」
「あーっ! 無視するなーっ!」
 ガチャっという音でそのキーキー声は止まる。
 俺は教師生活三年目にして初の新しい学校に転勤ということで、実は昨日の晩から緊張していたのだが、ユリオのおかげで少し楽になったきがする。これは小さなことだが、やっぱり結局俺はあいつに助けられるようなのだ。前からそうだった。だから付き合ったのかもしれない。もちろんそれがすべてじゃないが、好きなところの一つではある。
「槝崎せんせっ!」
 突然後ろから若い女の人の声がする。
「栗山か。偶然だな。」
「ですね。」
「いや違うだろ。駅までの道一緒だから毎日会うだろ。ツッコめよ。」
「期待してるのが見え見えだったんで。あえて無視してやろうと思いまして。」
 生意気な。
「それにしてもぼぉっとして。彼女さんのことでも考えてたんですか?」
 こいつの勘は妙に当たるから怖い。
「だったらどうする?」
「妬いちゃいますね〜。」
 なにっ!?
「先生の彼女さんだなんて、羨ましい限りですよ。先生に毎日家事を任され、そして夜にはその疲れた体にエロいこと要求されてそれにしたがって耐える日々。あぁ羨ましい!」
 どMもいいとこだ。
「そんな下品な付き合いしてねぇよ。それにまだ同棲してないし。」
「え? 下品なんですか今の。」
 わかっていないだと!? 何かいけないものの見すぎじゃないかこいつは!?
「お前はどうなんだよ。彼氏できたのか?」
 栗山はあからさまにげんなりした。
「できるわけないですよぉ。だってこんなんですもん。私。」
 自分で言うな。ていうかわかってんなら直せ。
「あ、でもこの前告白されたんですよ。」
「へぇ、マジか。どうしたんだよ。」
「どうしたもなにも、生徒だったんですよそれが。オーケーできるわけないじゃないですか。」
 うーんまぁね。禁断と言えば禁断だな。
「だから断りましたよ。そしたらその子ものすごくキレちゃったんです。本当にビックリしましたよ。」
「はぁ? なんだそれ。」
 よほど自信があったんだな。
「栗山のくせにっ! とか、ポンコツのくせにっ! とか、色々言われました。」
「ふーん。大変だったな。」
「なに言ってるんですか。楽しすぎて時間があっという間に過ぎましたよ。」
 ですよねー。
 まったく。普通にしてたらかわいいのに、性癖で台無しになってるなこいつは。
「北校は相変わらずか?」
「えぇそうですね。やんちゃな生徒もいますが、特に目立って悪いことをするコはいませんよ。」
「そうか。みんな俺がいなくなってせいせいしてるんじゃないか?」
 冗談混じりで言ったつもりだが、横で歩いているポニーテールは頬を膨らませた。
「そんなことないです! 絶対に!」
「あぁそう?」
 そりゃよかったけど……。
「みんなまた会いたいって言ってます。特に去年の槝崎先生の担任だった二年二組の生徒たちは、先生の話になるとビックリするほどよく喋るんですから。みんな大好きなんです先生のことが。ほんと羨ましいくらい。だから自信持ってください! せいせいしてるなんて言わないで!」
 もう夏が来たんじゃないかと思うくらい熱いなこの先生は。まぁ朝の目覚ましになっていいかもだけど。
「ありがと。」
「いえいえ。」
 目の前に最寄り駅がさしかかろうとしていたその時、栗山の足が止まった。
「どうした? 忘れ物か?」
 そう聞くと栗山は腕を震わせながら駅のほうに指を差した。顔も何故か恐怖を感じているようだった。どうしたのだろう。
「……あ……血………。」
 血? あわてて駅の方を見た。
「なんだ……あれ……。」
 駅の入り口にある改札付近で、人だかりができていた。そしてその隙間から見えたのは、あれは男性だろうか、血を服にたっぷりつけて倒れている人影だった。
「見ちゃダメだ。落ち着け。」
 俺は栗山の目をふさいだ。血液恐怖症のこいつには少し刺激があったようだ。目が安定してしなかった。体も震えている。
「……先生……血が……血が……どうし………よう……あぁ……。」
作品名:学校ろーるぷれいんぐ1 作家名:弦さん