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株式会社神宮司の小規模な事件簿

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 神宮司株式会社の会えるアイドル若松太郎氏が会長命令でお見合いを受けるらしいという話は瞬く間に広まった。
 その噂は社内で大きな波紋を生んだ。一瞬減少しかけた神宮司若社長ファンが枯れ専ブームにより再び返り咲いていたのも確かだったが、やはり爽やか若松氏のファンは今なお女子社員の中で多数を占めていたのである。熱狂的な若松氏ファンの中にはむきいと歯軋りをし「おのれ会長許せまじ。会長という身分を悪用し我と若松様との仲引き裂く気か。いいやそうはいくものかお見合い前に猛アタックGO!GO!」と叫び若松氏に体当たりをしにいく者も現れる始末であった。そんな混乱を耳にしてもなお我らが西一郎氏は柔らかくほふほふと微笑み、「お見合いに乱入愛の逃避行!ドラマティックではないか。楽しみ楽しみ。」と別の期待を膨らます始末であった。
 一方の若松氏はといえば噂の渦中にいる身の上にも関わらず未だ消えてしまった同僚兼砂怪人サンドゥーさんへの自責の念にかられていたのである。
 そんなわけでいくら体当たりしようとも惚れ薬入れようとも変顔しようともちっとも芳しい反応をしてくれない若松氏に女子社員は次第に諦めの様相を呈していった。
 そんなこんなでお見合い当日となったわけだが記念すべき舞台は東京から遥々京都某所が選ばれた。何故に京都かといえば初め西一郎氏は瞳ぴかぴかとさせ熱海のとある旅館を提案していたのだが、話終えるまで黙ってそれを聞いていた東一郎氏に「失礼ながら西一郎さん、駆け落ち先と勘違いしていらっしゃるのでは。」と問われだことで「あ、間違ってた。」と先日見ていたドラマとの取り違えに気付き、何だか面倒になってしまい会長室に貼ってあった日本地図に向けえいと日本ダーツの旅を行ったところ刺さった先が京都だった、というわけなのである。
 また見合い先の店には、突然の提案にも関わらず快く見合い話をひき受けてくれた紫野家に対しての敬意と感謝の意も込め、京都でも有数の高級料亭が選ばれた。
 さて、見合いは西一郎氏が影響を受けたドラマに従って双方の顔写真を見ないままに行われることとなった。というのもそのドラマでは主人公たち二人はいいえ僕は私はあの運命のお方以外と結ばれるつもりはありませぬと固く心に誓って粘っていたからである。そんなわけでドラマとは違い全くもって見知らぬもの同士の二人も西一郎氏の強い希望におされ見合い当日が本当の意味で初対面となったのだった。
 紫野嘉代子はそれは美しい薄桃色の着物姿でしゃきりと現れた。真っ白な肌と黒いショートヘアの対比が目に眩しい。何度か事前に会っていたはずの西一郎氏から見ても、その日の嘉代子の美しさは際立っていた。どうやら一応は厄日から抜け出したことも影響しているらしい。西一郎氏がその後不幸はあったかと尋ねたところ嘉代子はくりりとした瞳を伏せ、「鷹が一羽戻って来ませんの。こんなことは一族の歴史上初めてのことでしたわ。」と悲しげな答えが返ってきた。これこそがあの日暗示されていた不吉なことであったようだ。
 とりあえずはこれ以上の不幸も起こるまいということで嘉代子は割合気楽な心持ちで見合いに臨んでいた。
 そして、少し遅れて若松氏がやっとその場に現れたのである。