小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

株式会社神宮司の小規模な事件簿

INDEX|12ページ/17ページ|

次のページ前のページ
 

 我らが神宮司株式会社若社長神宮司東一郎氏が会長神宮司西一郎氏に呼び出されたのはある晴れた日の麗らかな午後のことであった。その現場である会長室は西一郎氏のオアシスでもあった。床には全面畳が敷き詰められており、中央にはゆうに20人は入れそうな巨大な炬燵が設置されている。他にも古めかしい本棚や菓子入れ、ラジオデッキなどがあり、会長室に呼ばれた社員は2時間ほど出てこなくなることで有名であった。
 そんな会長室で一体何が起きたのであろうか。

 その日、諸事情により大層疲れていた東一郎氏は、普段からは想像出来ぬ気だるげな表情でちらりと西一郎氏を見やっていた。その一瞥は見るも艶やかで、もしその場に女子社員がいたら卒倒しかねない破壊力があった。
「如何いたしましたか西一郎さん。私は酷く疲れているのです。」
 東一郎氏は柔らかな髪の毛をかきあげる。しかしてそんな東一郎氏の様子を全く気にとめない西一郎氏はふくよかな頬をにこりとゆるませた。
 「東一郎!私はとてもよいことを考えたのだ。本当によいことだ。」
 にっかにっかと微笑む父親を見ると東一郎氏は深くため息をついた。そして軽くネクタイを緩めるとそこらにあった味噌煮込みうどんをすすり始めた。
 「実はなぁ、昨夜綾子さんとドラマを見ていたんだ。するとなぁ大層立派な青年がお見合いをしていたんだ。今時社長命令でお見合い?時代錯誤も甚だしいわと綾子さんは笑っていたのだがな、なんとまぁそこで出会ったが彼が3年と恋い焦がれていた運命の女性だったのだよ!二人は初めは驚きあっていたのだが次第に己の運命に心打ち震えしかと抱き合い手に手をとってフィニッシュ。」
「西一郎さん、七味は何処にありますかな?」
「なんてまぁ馬鹿げた話何でしょ!今時子供のがよっぽど物事知ってるわと綾子さんは笑っていたのだがな、私はいたく感動してしまったのだ。運命の相手と再会出来る確率は果たしてどのくらいあるのであろう?しかも見合いというドラマティックな場においてだ!私はいたく感動した。しみじみ感動した。まっこと感動した。」
「西一郎さん、洗剤は何処にありますかな?お掃除の方を待っていては味噌がこびり付いてしまいますからな。こびりついた味噌ほど厄介なものは無かりけり。」
「とまぁそこで私は思いついたのだ。こうなったなら仕方がない。未だ見ぬ運命の妹子探すべく私が力になって然るべきではないのか、と!!まぁそういうわけでだな、見合いをせよ!!東一郎。」
「私には愛しき妻子が居ります故。」
 東一郎氏は西一郎氏を見ずに淡々とそう答える。東一郎氏は洗い物が好きであった。というか掃除という物全般が好きであった。
 一方の西一郎氏はというと、あれそうだったかしらんという表情でくりりとした大きな瞳をぱちくりさせた。
「お前、でも、七岡さんはいつも居ないではないか。あれでは妻とは言えまい。私が最後に彼女を見たのは確か3年前だったぞ。」
「彼女は道化師が仕事故。世界中を飛び回っているのです。何彼女を飼い慣らせる希有な者も私を飼い慣らせる希有な者もそれこそ希有故にそうは居ますまいて双方存じております故ご安心下さい。」
 東一郎氏は鼻歌なぞ吹きながら排水口を磨き始める。
 麗しき白魚の如きその腕に吸い込まれ逝く水滴は宝石の如くきらめきけり。
「そうかぁ。まあ仲良きことはよいことだ。私にはちいともわからぬが。時に東一郎、お前の部下には居らぬのか?」
「何が?」
「決まっておろう。傷心中の哀しき男は。」
「そう簡単には居りますまい。…む、いいや、居りましたかな。」
 東一郎氏はそこらにあった布巾で指を拭き拭き頭を振った。そして今一度ふうむと頷くと父親の方を見た。
「居ります。ぴったりの男が居りますとも。ただ、傷心と申しましても西一郎さんがお考えのものとは種類が違いますが。」
「して、その男は一体。」

 東一郎氏はネクタイをきゅっと締め直しにやり微笑んだ。
「若松太郎。」