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株式会社神宮司の小規模な事件簿

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 話を進める前に少しばかり西一郎氏の人物像について触れておこう。
 悪く言えばちゃらんぽらん良く言えば楽天家の西一郎氏は都会とも田舎とも言えないとある街の金持ちとも貧乏とも言えないとある家庭に生まれた。
 彼はその生まれの丁度良さからか非常に能天気な性格をしていて、生まれてこのかた汗水垂らして物事に挑んだことは無く、それであるのにその無邪気な容姿と性格は人を惹き付けてやまなかった。高校、大学受験の際には彼をお気に入りにしていた教師群の熱心な助力により世間に出てもまずまず恥ずことの無い学校に進学することが出来たのである。
 とりあえず食うに困らんだろうという高校時の担任の思惑により大学では経済を専攻していた。そこでも又彼は日々のほほんと土筆を摘んだりお菓子を貰ったりして過ごしていた。無論教授らの好意により単位を落とすことも無かった。
 そんな彼が如何にして会社などつくろうと考えたのであろうか。
 答えはごくシンプルであった。すなわち「なんとなく」である。
 持って生まれた人懐こさから彼は将来的には訪問販売員か保険勧誘でもするもんだと思われていた。彼自信は主夫になりたいなそれかムツゴロウさんなどと考えていたのだがとあるドラマを見たことにより彼の運命は誰しも予想だにしなかった方へと傾いていったのである。
 それというのは冴えない平社員の主人公が恋に仕事に奮闘するというありきたりにも程がある暇な中学生位しか見ない様なドラマであった。そして当時暇な大学生であった西一郎氏はその陳腐なドラマにいたく感動したのである。
 しかして何に感動したのかといえば脇役も脇役、主人公の直属の上司の課長…等ですら無く最終回においてのみ2、3回登場しただけの社長であった。
 さすが東一郎氏の父上目の付け所が凄いと褒めたいのも山々だが彼は別に社長役の俳優の演技力に感動したわけではなかった。彼は「社長」という生き物に対して興味を持ったのである。
 そのドラマの社長はいかにもドラマの社長然とした社長であった。大したこともしていないのに大きなふかふかとした椅子にふんぞり返り美味そうに秘書のいれた珈琲をすすっては時折部下の提案や報告に「うむ」「うむ」「うーむ」と返事をしているだけであった。
 それを見た西一郎氏がこいつはもう社長になるしかねぇやと思い立ってしまったのも当然といえば当然の話である。
 facebookもTwitterもミクシーも無い時代にリアル友達百人でっきっるっかなうん出来たよな状態であった西一郎氏はあれよあれよという間に会社を立ち上げた。
 勿論彼に商才があったわけではなく…一応経済学を専攻していたためそれなりの知識はあったが…才能溢れる友人らの興味本意の援助により成り立ったのである。
 人徳とも言うべきであろうか。
 そして何よりそんな適当な会社の存続を可能にさせた人物の中に、既に自らの会社を持っていた西一郎氏の大学の先輩でもある5つ歳上の才女、北條綾子を挙げぬわけにはいかない。
 綾子は眉目秀麗白百合のごとき白肌に恐ろしく整ったスタイル、それに加えジョークか本気かよくわからない発言、回りに回る悪知恵を兼ね備えたつまりは女版東一郎氏であった。要するに後々の西一郎氏の奥方つまりは東一郎氏の母上となる人物である。ちなみに東一郎氏は西一郎氏のDNAのおかげ…かどうかは解らぬがそこに若干のお茶目要素が含まれている。しかして九割型綾子のDNAであろうことは否定出来ない。この様に言えば綾子の恐ろしさも何となくは理解出来よう。
 とにもかくにも綾子の様な人間には西一郎氏の様なのほほんゆるキャラオーラ溢れる男が可愛くてたまらなかった。その為自身の会社をきちきちと成長させつつも西一郎氏の会社経営にもきっちりと目を通していたのである。
 つまり東一郎氏の父上母上は互いに別々の会社を持っているわけだが未だ綾子は西一郎氏にべた惚れであるためとりたてて家庭問題が発生したことは無かった。
 …そんな風にして生まれた我らが株式会社神宮司であったが如何せん西一郎氏の説明が長すぎた。
 本来ならばここらで事件の前半部が終わっているところなのだが未だ事件の爪先すら物語られていない。ということもあって普段の事件簿よりも若干話が長く成ってしまうことも大いに有り得ようがそこはまぁご理解を頂きたい次第である。

つまりはやっとこさ事件が始まるということである。