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きみこいし
きみこいし
novelistID. 14439
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アルフ・ライラ・ワ・ライラ7

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「そう、聞かせてくれないか。どのようにその魔物と出会い、そしてこの都まで来たのか。きみたちのすべてを」
穏やかな口調だったが、その声には人を従わせる者がもつ、強い響きがあった。
――――隠し通せる相手ではない。
覚悟を決めると、イオはすべてを話し始めた。
ネイシャブールの町、おちこぼれの魔術師見習いだった自分、市場で偶然見つけた古い指輪、魔神ジャハールが現れたこと、家を飛び出し隊商に拾われ、そして指輪を外すため、精霊を探して旅をして、この都まで来たこと。
長い話だった。自分でも驚くほど、いろんな事があった。
たくさんの人と出会い、多くのものを見て、経験し、感じた。
―――――なんということだろう。この指輪を手にしたのは、たった一月ほど前のことだというのに。
あまりの変化に、思わず苦笑が浮かぶ。
すべてを語り終えるとイオは大きく息をはいた。後は王子の判断に任せるだけだ。
ハキム王子は、じっと少女の話に耳をかたむけ考え込んでいた様子だったが、まっすぐイオをみつめて口をひらく。
「イオ、この都で学んでみないか?」
「学ぶ・・・」
予期せぬ言葉にイオはきょとんと目を見開く。
「そうだ。きみは、その指輪を外す術をもとめて旅をしてきたのだろう?この都には世界各地から集められた膨大な書物があるし、いにしえの時代から伝わる大いなる知恵が結実している。きっときみの力になるはずだ。この都の『知恵の館』で暮らし、学びなさい」
確かに、このまま闇雲に各地を旅しても精霊を見つける確率は低い。マムルークと出会ったのだって、予想外の出来事だったのだ。
――――それならば。
だがそれは、隊商のみんなと別れることを意味する。
脳裏に浮かぶのは都までの日々。オアシスの緑、灼けつく砂漠、通りすぎた数々の街、出会った人々、幾多の昼と夜。おおらかで誇り高い隊商の仲間、軽やかに踊る舞姫たち、そしてはじめて心を通わせた友だち。
――――サマル・・・それでも。
ゴクリと喉をならし、イオは口をひらく。
「はい。王子、お願いします」
しずしずと頭を下げた少女の返答に、王子はにっこりと笑みをかえす。
「そうか、よい師匠を紹介しよう。さっそく明日からでも知恵の館に移るといい。館にはわたしから話をしておこう」
彼らのやりとりに、聞くともなく耳を傾けていたジャハールは不機嫌そうに舌を鳴らすと、さっさと立ち上がり東屋を後にした。




宴の場に戻ってきたイオを出迎えたのは、嫉妬と羨望、そして期待と好奇心が混じり合った複雑な視線だった。
「え、なに?」
きょとんと首をかしげるイオに、なにやら納得した様子の舞姫たち、安堵といささかの落胆の息をもらす商人たちに連れられて、ともあれ宮殿を後にする。
イオたちの隊商は都の端、都門にほど近い広場に場所をかりて天幕を張り、宿としていた。他にも様々な土地からやってきた隊商が数多く天幕をつらねており、隊商同士の交流も盛んで、さながら一つの村のようだ。
事のなりゆきを相談するため隊商の長の天幕を尋ねていたイオは、話を終え天幕を後にすると、サマルたち舞姫の休む天幕へ踵をかえした。
――――夜も更けた。あたりはすっかり寝静まっている。
彼女たちを起こさぬよう、そっと近づいたイオだったが、予想に反して天幕の外に膝を抱えた小柄な人影があった。サマルだった。
彼女は近づくイオを見つけるとにっこりと微笑み、唇に指をあて、手招きをする。
サマルにしたがってすこし歩くと、そこは天幕が連なる隙間、わずかな木々が風にそよぐ小さな広場に行きあったった。
並んで腰を下ろすと、サマルが労るように声をかける。
「ふふ、おつかれさま、イオ。今日は本当に朝から大変だったわね。姉さまたちも、もうぐっすりよ」
「うん、サマルも。おつかれさま。宴の楽とっても素敵だった」
「ありがとう。嬉しいわ。ねぇ、少し話してもかまわない?それとも、つかれちゃった?」
「ううん、そんなことない」
先ほどの隊長との話し合いを思い出し、イオは表情を曇らせる。
――――むしろ、話があるのはわたしの方だ。
けれど、なかなか言い出せない。そんな彼女の心中を察してか、サマルはさらりと核心を口にする。
「ねぇ、イオ。王子ってどんな方だった?」
「うん。王子はね、とても優しくて素敵な方だったよ。姉さまたちが憧れるとおりの方だった」
「そう・・・素敵ね。わたしもぜひお話してみたかったわ。でも、まあ、宴の席ではお誉めの言葉をいただいたし、それでも身に余る話よね」
「あの、サマル・・・実はね、わたしたち、目的があってこの都まで一緒に連れてきてもらったんだけどね。それで、その話を王子にしたら、この都で・・・・知恵の館で学ぶことになった」
「・・・うん。よかったね、イオ。なんとなく、なんとなくね、感じてはいたの。イオと、あの人は、わたしたちとは違うって。魔術師だからってだけじゃなくて、わたしたちとは、・・・・ずっと一緒にいられないんじゃないかって。
だから、ハキム王子がイオを指した時、みんなほど驚きはしなかったの。『ああ、やっぱり』って、なんだか素直に納得しちゃった」
「サマル・・・」
「でも、寂しくなるわ」
「うん、わたしも。寂しい」
「やだ。そんな顔しないで。国いちばんの知恵の館で学べるのでしょう?がんばってね、イオ。しっかりね」
サマルの優しさとかわらぬ微笑みに、故郷を逃げるように飛び出したイオはどれだけ救われたか知れない。
「・・・ありがとう。わたし、サマルと出会えて本当によかった。友だちになれて嬉しかった」
「もう、イオったら。これで最後みたいな言い方やめて。たしかに離ればなれになるけど、わたしたちもまた都に来るもの。何度だってあえるわよ」
「そうだね」
「そうよ、だから寂しいけど。またすぐ会えるわ」
ぎゅっと固く抱き合い、少女たちは言葉をかわす。
「ずっと、ずうっと友だちよ」
「うん」
涙ににじむ視界。瞬きをすれば涙がこぼれ落ちそうで。
見上げた夜空には、星が静かに瞬いていた。


そして二日後の早朝、サマルたちの隊商は出発し、イオは知恵の館の扉をくぐることとなった。