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CROSS 第18話 『Embassy』

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 山口がオフィスで探し物をしていたころ、そのオフィスがよく見
える部屋にいた若い女性が、宿直室に電話していた。女性の視線は、
オフィスに向いていた……。
『はい、宿直室です』
「あの、父のオフィスの明かりが壊れているみたいです。何か探し物をしている方がいるんですけど、暗いせいで、探しづらそうなんです」
『……わかりました。調べて見ます』



『あっ、それよそれ』
しばらく探していると、アバーナシーが言った。山口は、その書類
を、髪の毛型隠しカメラに見せた。
『録画完了よ。じゃあ、帰ってきていいわよ』
「了解」
山口がやれやれとオフィスをあとにしようとした。

『まずいわよ! 警備員がこっちに向かっているわ!』

突然、アバーナシーがそう叫んだので、山口は素早く内側からドア
の鍵を閉めた。そして、そっと窓をのぞくと、庭を二人の警備員が
こっちに向かって走っていた。近くの建物を見てみると、部屋の窓
から、あの女性がこっちを見ていた。
『あの女性は、クライン議長の娘さんね。ラクス・クラインという
名前で、いい歌声をしているわよ』
アバーナシーが、聞いてもいないことを教えてくれたが、山口は
のんびり聞いているどころではなかった……。
「おい、ドアを開けろ!!!」
ドアの向こうから、警備員の怒鳴り声がした。ドアをドンドン叩く
音が、オフィス中に響き渡る。

「クソ!」
山口は悪態をつくと、窓を開けた。このオフィスは3階にあり、
飛び降りて、そのまま走り去るということは無理そうだ。
 そこで山口は、下に向かって壁を走る排水管をつかんだ。高所
恐怖症である山口は、下を見ないようにしながら、排水管をハシゴ
のようにして、下へ降りていった。
 そして、ちょうど下に降り立ったときに、オフィスから、ドアが
蹴破られる音がした。山口は回れ右をして、庭を突っ走って、茂み
の中に飛びこんだ。そして、また木登りして、塀を乗り越えた。

 塀から降り立った山口は、辺りを見回して、誰もいないことを確
かめた。それから山口は、少し離れた場所に駐車してあったあの車
に飛び乗り、元の服装に着替えた。急いで車を発進させ、大通りに
出たとき、やっと彼はほっとすることができた……。



 大使館に戻った山口は、アバーナシーに戻ったことを伝えた。
彼女は笑顔で山口を迎えると、明日は仕事を休んでいい(良い
意味で)と言い、髪の毛型隠しカメラを外した。
 そして、山口は、宿舎に用意されている自分の部屋に行くと、そのままベッドで眠りこんでしまった。