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きみこいし
きみこいし
novelistID. 14439
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アルフ・ライラ・ワ・ライラ5

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「ありがとう」
手渡してくれたのはナンに肉と野菜を挟んだものだ。できたてを持ってきてくれたのだろう、刺激的な香りにつられてイオはさっそく朝食を頬ばった。熱々の食事に思わずイオの表情がゆるむ。機嫌を良くした様子の少女に微笑むとカラムも隣に腰をおろし、朝食を口にする。
「いや~それにしても、昨日はすごかったね。オレも剣にはちょっと自信があったんだけど、彼の強さは剣技とか、そんな度合いの話じゃないな。他の人とはちがうって、みんな噂してるよ」
「ぶっ!はは、それは、まあ・・・・」
――――『人じゃないからね』
なんてとうてい言えず、もごもごと言葉をにごすイオに何か勘違いしたのか、カラムはにっこりと微笑んだ。
「いいよ、心配しなくても。オレはイオの味方だからね」
「え!?」
もしやジャハールの正体がバレたのかと、身を固くしたイオだったが。
「隠すことないさ。彼とはやっぱり恋仲なんだろう?愛する人のため魔神のような戦いぶり。同じ男として見習いたいもんだな、うん。」
「あの、ちょっと、カラム!違うから!」
声をあげるイオをきょとんと見やり、カラムは続ける。
「違う?なんで?あ、もしかして照れてるのかい?」
「ちがうってば」
「でも、彼はずっときみを守っているように見えたけど」
「そ、それは、理由があって・・・」
――――ばかみたいだ。何でこんな事に。
ひどい誤解にイオは頭をかかえる
ジャハールがわたしを守るのだって、わたしが指輪の主で、死んじゃったら好き勝手暴れられないからじゃないか。
「理由?姉さんたちが噂するように、駆け落ちかい?」
「もう!カラムまで。やめてよね。ジャハールとは、そんなんじゃないんだから」
「・・・ふぅん。そうなのか」
独り言のように呟くと、カラムはスッと目を細め、不敵な笑みに唇をゆがませる。
先ほどまでの陽気な口調とはまるで異なる様子に、けれども頭に血が上っているイオは気づくそぶりもない。
「そうだよ、これ以上くだらない事言うなら、もう口きかないから」
ぷんぷんと怒るイオに、あわててカラムは手を合わせると宥めにかかった。
「や、ごめんよ。そんな、疑うつもりはないって。ほんと。機嫌をなおしなよ、かわいい顔が台無しだ」
「嘘ばっかり」
「嘘じゃないさ。砂漠に湧く清水のように、澄んだ瞳で微笑んでおくれよ」
「・・・なにそれ」
「え、だめかい?」
「うん」
にべもなくキッパリと言い切るイオに、しおしおと手を振るとカラムは持ち場に戻っていった。





盗賊を警戒しながら、隊商は進む。けれど、昨夜あれだけの反撃をくらった相手に、昨日の今日でまた襲撃をしかける可能性は低い。
そして、明日には都だ。
朝夕の行程も順調に進み、最後の夜という安堵感もあって、隊商の面々はどこかほっとした表情をしている。
(よかった、このまま無事に都につきそうだ)
夜営の用意をしながら、イオもそっと息をつく。
もうこれ以上ジャハールが目立つ場面もないだろう。都に行けばきっと精霊は見つかる。由緒ある神殿や高名な魔術師も多いと聞く。きっと、この指輪を外す方法が見つかるはず。
荷駄を整え終えて顔をあげたイオは、周囲の様子に目を見開き、思わず声をあげた。
「何これ、煙?まさか!!」
あたりは一面の白い煙につつまれていた。火の手でもあがったのかと慌てて見回すが、悲鳴や叫び声も聞こえない。
風はきな臭くもなく、むしろかすかに、甘く、痺れるような香りがした。
ぐらりと視界が揺れる。
(え?)
あわてて口をふさぎ、息をとめるが間に合わず、瞬く間にイオは意識を失った。


奇妙な煙を平然とかき分けながら、ジャハールは呟く。
「まさか昨日の今日で襲撃してくるとはな。ずいぶんと懲りない連中だ。くく、いい度胸してやがる」
これでまた一暴れできるってもんだ。襲撃はむしろ彼の望むところだった。
剣呑な光に双眸を輝かせながら、魔神はニヤリと笑う。
だが、奴らとやりあう前に澄ませておく用事がある。淡々と進んでいくと、探すまでもなく、目当ての人物がジャハールの前に現れた。
にこにこと微笑みながら、気持ちよさそうにふらふらと歩いていくイオだ。
仮にも魔術をかじっていたと言うわりに、このザマだ。
なんとも情けない表情に嘆息すると、魔神は少女の頭に拳をおとした。
「おい、いい加減目をさませ」
ゴツンという痛々しい音ともに、イオの声があがる。
「ったぁ!何するのよ」
「まわりを見ろ」
「え?」
痛む頭をさすりながら煙の中を見回すと、女たちがふらふらと進んでいく。
舞姫だけでなく、ラクダや馬、ロバまでもが、みな一様に幸せそうな、夢見る表情を浮かべて、盗賊たちについて行くのだ。
「ジャハール、これって・・・」
「どうやらあの煙には幻覚作用があるらしいな。邪魔な男どもは眠らせて、女と荷駄を奪うつもりか。ふん、低級な魔法だが、それでも魔法に免疫のない相手なら効果はあるだろうな」
「・・・助けないと」
「はぁ?ほっとけよ」
「だめ。みんなを助けるの。行こう」
そのとき、白いヴェールの中から飛び出してきた人影に、反射的にジャハールはイオを背後にひきもどす。
「おっと!何だ、君たちか」
剣を抜いたカラムだった。
「カラム!よかった無事だったのね」
「しっ!こっちだ」
ぴょこんとジャハールの背中から顔をのぞかせたイオに破顔すると、カラムは二人と岩陰に引き込んだ。
「君たち、よく無事で・・・」
「うん、ジャハールが助けてくれたの」
「・・・そうか」
「そんなことより、急いでみんなを助けよう!」
「待った!それは無謀すぎる」
「なんで?早くしないとみんな連れていかれちゃうよ。大丈夫、ジャハールはすごく強いから。あんな奴らすぐやっつけてくれるよ。それに、実はわたしも・・・」
イオの言葉をさえぎり、カラムは口をひらく。
「いや、彼が強いことは十分わかっているさ。だけど、相手は多勢だ。追い込まれたら隊商のみんなを人質にとったり、傷つけるかもしれない」
「でも・・・」
「このまま後をつけて、奴らのねぐらをつきとめよう。そして油断した所を狙うんだ。いいね、イオ」
「わ、わかった」
強く言い切る様子に釈然としないものの、彼がそこまで言うのなら反対する理由もない。イオは頷くとカラムの後について、盗賊たちを追いかけたのだった。




「どうやら、あの遺跡がやつらの本拠地らしいな」
カラムの声にイオはハッと目をこらす。砂漠の先に天に伸びる細長い石のかたまりが見えてきたのだ。古くに捨てられた神殿なのだろうか、あちこちに翼のある獅子や、鋭い牙を持つ獣、神獣をかたどった石像がおかれている。
盗賊たちが掲げる松明の火が揺らめき、さながら生きているかのように、獣たちは侵入者に目を光らせる。
「ひゃ!」
突如、闇に浮かんだ石の獣に驚き飛び上がったイオは、とっさに手近なもの(この場合は隣を行くジャハールだ)にしがみついた。そんな彼女を呆れたように見下ろして、ジャハールはベリッとひきはがす。
「ただの石像だ、怯えるな」
「う、うん」
とはいうものの、今にも動き出しそうで、こわい。