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きみこいし
きみこいし
novelistID. 14439
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アルフ・ライラ・ワ・ライラ5

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砂漠の夜空は透きとおるほどに澄み渡り、宝石のように星々が輝いている。
岩山の頂に座りこみ、ジャハールは空を見上げていた。
イオの気配には気づいているのだろうが、魔神は不機嫌に黙り込み、こちらを見ようともしない。イオは意を決すると、凛と透きとおった空気を胸一杯にすいこみ、声をかけた。
「ジャハール、あと三日も進めば都につくんだって」
「・・・」
「怒ってる・・・よね。でもずっと考えてたけど、やっぱり世界を支配するとか、財宝がほしいとか、そんなことは望まない。ただ、この指輪を外したい」
イオはそっと左手に視線をおとす。中指には相変わらず黒い石をはめこんだ指輪がおさまっている。石をなぞりながら、イオは言葉を続ける。
「この指輪を外して・・・・ネイシャブールに、家に帰りたい」
父も、義母も、ジズともうまくいっているとは言えなかったけど。なじめなかったけれど、やっぱり、あの場所がわたしの家なのだ。
囁くような声に、男はやっと口をひらいた。
「で、こうやって隊商で雑用していたら、指輪は外れるのか?」
「それは!でも、いろんな町に行って、探せばきっと精霊は見つかるよ。そしたら、お願いして・・・」
はぁ、とため息をつくとジャハールはイオに向きなおる。
「いいか、お前はまったく時を無駄にしている。おとなしくオレの・・・」
お説教がはじまろうとしたその時、ピクッとジャハールの体がこわばり、周囲に鋭い視線をはしらせた。かたい表情に、イオは怪訝な表情を浮かべ首をかしげる。
「どうしたの?」
「さがってろ」
少女の問いには答えることなく、魔神はイオをその背にかばうと腰をおとし、身構える。ジャハールにつられるように、イオも耳を澄ませて周囲を見回す。
すると突然、馬のいななきと共に男たちの雄叫びが響いた。
砂漠を見下ろすと松明を手に馬にまたがり、剣を持った男たちが隊商めがけて突っ込んでいく。

――――盗賊の襲撃だ。

盗賊たちの声に、あわてて天幕から武器を手に取り男たちが飛び出していく。瞬く間にあたりは混乱の渦におちいり、怒声と悲鳴、剣戟の音が響き渡る。
「馬を、荷駄を守れ!」
「相手は多勢だ!円陣を組み、応戦しろ!!」
隊長が指示を飛ばし、カラムたちも応戦しているが、盗賊は馬上から剣をふるう。その数といい、圧倒的に不利だ。
(このままでは・・・)
「行こう、ジャハール!」
ギュッと拳をにぎりしめるとイオは飛び出した。そして乱闘のさなかへまっすぐに突っ込んでいく。
予期せぬイオの無謀な行動にジャハールは目を見開き、怒鳴るとあわてて追いかけた。
「あ、てめぇ!待て!勝手なことすんな」





先をいくイオは振り返りもせずに、サマルたち舞姫の天幕に駆け寄った。
だが彼女に気づいた盗賊の一人が、イオの行く手をはばむように馬首をめぐらせ、剣を振り下ろす。
「あっ!」
「くそっ!」
とっさに腕でかばうイオに、追いついたジャハールは彼女の襟首をつかみ、力任せに引き寄せ、地面に押し倒す。そして、振り下ろされた刃を間一髪、手枷で受け止めた。
ギィンと鋭い金属音があたりに響く。
虚を突かれ、動きをとめた盗賊を、すかさずあいた片手でひきずり落とし、剣を奪うと蹴り飛ばす。盗賊は地面を転がり、岩にぶつかると気絶した。
「ばかやろう!何してる!」
呆然と見上げるイオに噛みつくように怒鳴ると、ジャハールは少女を片手で抱え上げ天幕に放り込んだ。突然の侵入者に女たちの悲鳴があがる。
「いたぁ!ジャハール!!」
「そこで、おとなしくしてろ!」
粗雑な扱いに抗議するイオの鼻先に指をつきつけ男は言い切ると、戦闘にとって返す。
走り去る背中にイオは思わず声をかける。
「ジャ、ジャハール!人は殺さないで」
イオの言葉に男の体がビクッと痙攣し、
「くそっ!無茶ばっか言いやがって」
忌々しげに悪態をつくと、飛びかかってきた盗賊の剣を受け殴り飛ばす。
どうやら願いを聞いてくれた様子に、イオはホッと息をつく。
あらためて天幕を見回すと、舞姫は全員無事のようだ。不安げに天幕の中央に身をかためている。その中からサマルがイオに駆け寄ってきた。
「イオ!よかった。無事だったのね」
「うん、サマルたちも大丈夫?」
「ええ。でも、あんなに盗賊がたくさん。みんな大丈夫かしら・・・」
「平気だよ、ジャハールがいるから」
きっぱりと自信をもって言いきるイオの様子に安堵したのか、舞姫たちも近寄ってくる。
「ジャハールってさっきの人?」
「うん」
「そんなに、強いの?」
「見たいわ」
「あら、わたしも」
そうして天幕の布を持ち上げ外の様子をうかがいはじめた。おもてではジャハールが剣をぬき、襲いかかる盗賊たちを次々と叩きのめしている。
「きゃ!また一人倒したわ!」
「ほんと!ほんと!」
先ほどまでの怯えた様子はどこへやら、きゃっきゃと手をたたいて声援をおくる有様だ。
「すごいわね」
「強いわね」
「すてきねぇ」
うっとりと瞳を潤ませ、舞姫たちは呟く。
「は?」
「ねぇ、イオ。あんたたち本当に恋人じゃないの?」
「ち、ちがうに決まってるよ」
驚愕に目を見開き、ブンブンと首を振る。
「なら、あたしたちが声をかけてもかまわないでしょう?」
「ちょっと、姫さまたち!こんな時に、何言ってるの!」
あまりの展開にイオは絶句する。
確かに、ジャハールの活躍は群をぬいていた。カラムやキャラバンの男たちも奮闘しているが、彼が動くたびに盗賊はどんどんと数を減らしていく。
見る間に隊商に群がっていた盗賊の数は逆転した。天幕を背後にかばい、ジャハールがギロリと睨み付ける。鋭い視線と殺気に気圧された盗賊たちは、
「くっ、退け!」
倒れた仲間を回収すると、砂煙をあげて去っていった。
わぁ、と歓声があがる。
彼を取り囲み、肩をたたき労う男たちを鬱陶しげにふりはらうと、ジャハールは天幕から飛び出した女たちに視線をはしらせる。目があったイオは、慌てて視線をそらせた。
「?」
ジャハールはイオの奇妙な振る舞いに眉をひそめたが、ともかくも少女の無事を確認すると、さっさと岩山へ戻っていった。




結果として、盗賊たちの襲撃のおかげで、ジャハールの株は一気にあがってしまった。
まあ、胡散臭そうに疑われているよりはマシなものの、これはこれで困った事態になっている。
今日も朝も早くから、さっそく面倒ごとをひきおこしている。
「ねぇ、イオ。この髪型どうかしら?あの人の好み?」
「ちょっと、私が先よ。彼は何色が好きかしら?」
「わ、わかりません!」
「あ、ちょっと待ちなさい!」
「イオ!」
互いに押しのけ、つつきあい、迫り来る舞姫たちの剣幕に、イオはあわてて桶をかかえて飛び出した。
ずっとこの調子だ。
『好きな食事は何?』
『どんな女性が好み?』
『服は?』
『宝石は?』
『詩は好き?』
『歌は?』
次から次へと質問攻めだ。
当のジャハールと言えば、そんな好意の視線にも一切興味ない様子で、相変わらず不機嫌そうに仕事をこなしている。
「まったく、冗談じゃないったら。何でわたしが」
ぶつぶつと文句を言いながら、馬たちに水を与えていると、
「やあ、ご機嫌ななめだね」
「あ。カラム、おはよう」
「おはよ。ほら、これ朝メシ」