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タマ与太郎
タマ与太郎
novelistID. 38084
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クラインガルテンに陽は落ちて

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 私たちはこの春の出会いをお互いに思い出していた。
 そのあと柚木は矢継ぎ早に私に質問をしてきた。麦藁帽子のこと、仕事のこと、主人との出会いのこと、そしてサンフランシスコのこと。
「もう、証人尋問みたいなんだから」
「ごめんごめん、立ち話ではあまり突っ込めなかったから」
 私たちは言葉遣いも少しずつフレンドリーになっていった。
「じゃあ、私も聞いていい?」
 私も柚木に証人尋問のように色々なことを聞いた。本当に柚木のことを知りたかったことも事実だった。柚木はごまかさずに全て答えてくれた。私たちの会話は途絶えることなく続いた。

「音楽でもかけましょうか」
私はいつものジャニス・イアンをかけ始めた。
「ジャニス・イアン、いいですよね、僕が高校生のときブレイクしました」
「私は中学生、あ、歳がばれちゃう」
「ハハハ」
 笑った後、柚木が私を見ていることは分かっていた。でも何となく私は視線をそらした。しばらくの間、二人とも黙ってジャニス・イアンを聞いていた。
 私の大好きな “Will you dance?” が始まると、柚木が口を開いた。
「『マディソン郡の橋』という映画をご存知ですか?」
「タイトルは聞いたことあるけど、観てないです」
「主人公の女性と、4日間だけ恋人になる男性がダンスをするシーンがあるんです」
 柚木はそう言うと、ゆっくりと席を立ち私の横に立った。そしてキョトンとしている私に向かってこう言った。
「僕たちも踊りませんか?」
 外はすっかり暗くなっていた。