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タマ与太郎
タマ与太郎
novelistID. 38084
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クラインガルテンに陽は落ちて

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『わかりました、そちらに行きます。ただ会社や家のことがあるので、少し時間をください。時期的な目処がついたらこちらから連絡します。 由樹』
 私は送信ボタンをカチッと押した。
 その翌日、早速会社の上司に事情を説明し、家のことについては不動産屋との交渉を始めた。ありがたいことに、会社は私の籍を残したまま休職扱にしてくれることになった。長年務めた信頼と、1年くらいならば、という社長の判断に私は感謝した。家についても1年間であれば掃除や風通しなど管理のみを行ってくれるサービスがあるとのことで、それをお願いすることにした。
 私は仕事の引継ぎなどを考え、8月いっぱい、遅くとも9月中にはそちらに行けそうだという内容のメールを夫に送った。夫からはすぐに「分かった、待ってる」という短い返事が来た。
 久しぶりに晴れの週末を迎えた。クラインガルテンも8月中には整理しなければならない。私はパンクを直した自転車を漕いだ。トマトはもう既に小さな実がいくつか生っている。ジャガイモも緑の葉を青々と茂らせている。柚木の姿は見当たらなかった。パンクはもう直したこと、トマトが小さな実を付けたこと、そして夏の終わりに日本を発たなければならないこと。私は早く柚木に伝えたかった。何の連絡手段も持たない私には待つことしか出来ない。結局その日に柚木は現れなかった。
 私は手を洗ってから家に帰った。そして鏡に映った自分を見てハッとした。
どうしてそんなに悲しそうな顔をしているのだろう。表情は沈み、髪もボサボサだ。
「やっぱり私どうかしてる」
 サンフランシスコに行くまでに荷物を少し整理しなければならない。この機会に不要なものは処分してしまおう。私は気分を紛らわすために部屋の片づけを始めた。引き出しを整理していると、1枚の古い写真が出てきた。10年以上前に夫と旅行に行ったときのスナップだ。観光名所の前で笑いながら写っている二人がそこにいた。
「そう、私には夫がいる。そして3ヵ月後にはこの人と一緒にサンフランシスコで暮らしているのだ」
 私は当たり前の現実を考えながら、鏡に映った自分の顔をもう一度眺めた。
「そうだ、明日は髪を切りに行こう」