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タマ与太郎
タマ与太郎
novelistID. 38084
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色の付かなかった夢

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お前は初めて僕の前で口を開いた。
「あんたの夢なんだろう。自分で色を付けてみなよ」
そう言ってお前は使いかけの絵の具箱を、ギターケースの上にポンと置いた。
「あ、ありがとう」
僕は突然のことにそう答えるのがやっとだった。
「それから、これ」
お前は少しはにかみながら、一枚のケント紙を僕に手渡した。

これが最初で最後のお前との会話だった。
お前の声は思っていたより低くて太かった。
かすかに笑って見せたあと、お前は踵を返した。
初めて見せる小さな笑顔だった。
少々ふらつきながらお前は店を出て行った。
「今日は少し飲みすぎたのかな」
僕はこのときそれほど心配していなかった。

お前に手渡されたケント紙には、一人の美しい女性のデッサンが描かれていた。
透きとおった瞳に形の良い眉。
長い髪を真ん中から分け、小さな口元からは笑みがこぼれていた。
デッサンの右下には、”NANA”と記されていた。
恋人なのか家族なのか、まあそんなことはどうでも良い。
僕は早速そのケント紙を一番後ろの窓側の席の壁に飾った。
タバコの煙で黄ばまないように、安いフレームに収めた。

次の月曜日、お前はいつもどおり自分の指定席に向かった。
壁のデッサンにチラっと目をやると、何もなかったように席に着きタバコに火をつけた。
そしてその日を最後にお前は店に現れなくなった。

お前が姿を現さなくなってから約半年が経った。
この半年間僕はお前についての情報を集めた。
しかしこれといった情報もなく、悶々と時間を過ごすしかなかった。
そんなある日、ステージが終わってEdgeのマスターに呼ばれ衝撃的な知らせを受けた。

お前の悲報だった。
僕は耳を疑った。

作品名:色の付かなかった夢 作家名:タマ与太郎