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おとぼけタクシー

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おとぼけタクシー




 今日は売り上げが伸びないなーと、小生は思った。走っても走っても、一向に手が挙らない。午後になっても駄目だ。景気が悪いんだなー、と思った。小生の後ろのタクシーには何度か乗車した。車は最近ハイグレード車に変えてもらった。ぴかぴかの黒い車で、ちゃんと洗車もしてある。小生の顔がいまいちなのかなーと思った。哀しいことだ。
 昔はこれでもちょっとはモテたのだ。ひと月に三人の女性とデートをしたことだってある。全部二度目はなかったけど。哀しいことを思い出してしまった。
 駅前のタクシーの行列に入れば、必ず乗客が乗ってくれて、最低710円は頂ける。今日は駅に頼らないで頑張るつもりだったのだが、売上ゼロでは会社に帰れない。
 仕方なく長い行列に並んだ。小説を読みながら、小生は順番を待っていた。後方からクラクションを鳴らされた。小説に夢中になり、前方に百メートルの空白ができていた。そうこうするうちに一時間近くも経ち、漸く小生の車も乗客を迎えた。その時点で、小生はヘコんだ。
「運転手さん!『回送』になってましたけど、新高輪プリンスまで行ってもらえますか?」
 ガーン!そうだったのか。「回送」表示だったから、手が挙らなかったのか。

作品名:おとぼけタクシー 作家名:マナーモード