小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Haus des Teufels

INDEX|2ページ/26ページ|

次のページ前のページ
 

§ 訪問者 §

 
 熱いシャワーを浴び、届いたばかりの夕刊を読んで一息入れていた。
 職住一体の特典だ、もう外には出ないと決心した。
 夜の営業まで、階下に行く必要もないだろう。


「マスター、お客様です」

 上戸由香里の、普段より一音階高い声が聞こえた。
 しかも、”様”付きだ。
 賭けてもいい、こんな時は男に決まっている。
 それも、”イケメン”だ。

 二階の自宅から戻ると、確かに当たっていた。
 ボルサリーノを手にした背の高い男が、姿勢を正して立っていた。
 特徴的なのは、日本人離れした銀色の髪と彫りの深い顔。
 そして、眼力だった。
 意思や内面の強さだけではなく、闇を見通す光が宿っていた。

「初めてお目にかかります。伊集院家の者です。」
 朗々とした声だった。
「真子さまが、お世話になりました。ご挨拶が遅れ申し訳ございません」

 若く見えるが、落ち着いた物腰だ。
 私は、後で由香里に殴られないよう紳士を気取った。
「どうぞ、お楽に」
 誰もいない店内、カウンターの一番良い席を勧めた。
 入り口と……私の定位置から一番遠い席だ。


 彼は座る代わりに、上流階級の身勝手さを申し訳なさそうに伝えた。
「突然のお願いで恐縮でございますが、ご足労いただけませんでしょうか?」

 悲観は連鎖する。
 だが、悲観するか否かは自分で決められる。

 私は丁重にお断りした。
 
 
作品名:Haus des Teufels 作家名:中村 美月