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Haus des Teufels

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§ 自信と恐れ §


 風の強い一日だった。
 行き場を失った旋風が、コートを翻し、落ち葉とタンゴを踊っていた。


 部屋に戻ると、黒猫が日差しを浴びて眠っていた。
 季節は春と夏の間、しかも昼下がり。
 まどろむには最高の時間だろう。
 春の女神は、睡魔を置き去りにして北の国に向かったようだ。

 本来なら、荒井麗子に引き取られているハズの黒猫。
 結局、私が預かることになった。
 理由は、言わず語らずだが……たぶん、皿の二・三枚でも割ったのだろう。

 部屋に、石鹸系の香りが残っていた。
 伊集院真子、どことなく大人びている少女だった。
 それは黒を基調とした服のせいでも、物静かな性格からでもなかった。

 魔法という大きな力を得た者は、自信と恐怖を知っている。
 何もしないで、自信だけが手に入る事はない。
 だが、力を使えば必ず周りに影響を及ぼす恐れがある。
 10歳で、自分と世界の関わり方に戸惑っていた。


 もう少し早く帰宅できたらと後悔したが……。
 この姿を見られなかった事を幸運にも思った。
 サハラ砂漠を歩いて越えても、こんな格好にはならないだろう。
 
 

作品名:Haus des Teufels 作家名:中村 美月