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明月院編

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 予告通り、明月院さんは私の自宅まで迎えに来てくれた。
 隣りで真っ直ぐ前を見て運転する明月院さんの横顔をチラチラと伺っていると、ため息を吐かれてしまった。

「はあ……。さっきから俺の事見てるけど、何?」
「あっ、いえ、何でもありません……」
「じゃあそんなにじろじろ見ないでくれる? 気が散る」
「すみません」

 それから明月院さんの横顔を見ないよう、私は景色に集中した。
 だって明月院さん話し掛けても答えてくれなさそうだし、だからって明月院さんの方から気さくに話し掛けてくれるなんて事ありえないし。
 なんだかなあ……沈黙が嫌な訳じゃない。明月院さんが私に全然心を開いてくれないことが悲しいんだ。



 しばらく走ると、打ちっぱなしのコンクリートで出来た建物の前に到着した。

「車止めて来るから待ってて」
「あ、はい」

 車を降ろされ、見知らぬ場所でぽつりと待つ私。

「レコーディングスタジオ“BREATH”」

 建物の入り口にある看板を読む。
 本当にレコーディングスタジオに来ちゃったんだ。

「行くよ」

 いつの間に現れたのか、気配もなく明月院さんが私の背後に立っていた。びっくりした〜。
 そしてすうっと入り口へ向かうのを、慌てて追いかける。

「あの、今日はどんなお仕事なんですか?」

 エレベーターで地下へ降りながら、やっと尋ねる事が出来た。だって会社のとは別の仕事って言ってたけど、それが何なのか聞いてないんだもん。

「なんとかってバンドのレコーディング」
「はあ」

 なんとかって、明月院さん、自分がお仕事するバンドの名前も覚えてないんだ。不思議な人だなあ。
 なーんて思って地下でエレベーターが止まると、私の目に飛び込んで来たのは、今話題の大人気バンドのボーカル、TAKA! この人、何度もテレビで見た事あるよ〜! っていうか、CD持ってるし!!
 私のテンションは急に上がった。――――けど、明月院さんに怒られるから声には出さない。だって「うるさい」ってまた怒られるもん。

作品名:明月院編 作家名:有馬音文