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いろいろな気持ち~生まれてきてくれて、ありがとう~

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    最後の一枚―この写真だけが捨てられなかったの
    でも 明日は結婚式だし
    流石にもってるのはヤバいから
    捨てようと思ってここに来た
    焼くのも忍びないし ゴミ箱に捨てるのはもっといやだったから
    私のあなたへの最後の未練を 想いを
    この海に流して これで本当におしまい
    
写真の中の鮮やかな紫陽花は少しも色褪せていないのに
    人の心はたった数年でこんなにも変わるもの

今 あなたとの最後の想い出のかけらが
  ゆらゆらと海面に漂いながら深い水底へと消えてゆく

  〝尼よ、都はどこにあるのか? 〟   
  〝この波の底にも都はございます〟

   何故でしょうね
    大学の国文科で習った〝平家物物語〟の一節がふっと浮かんだわ
    あれは壇ノ浦の合戦での
    幼い帝と祖母の二位の尼のやりとり   

   おごれるものは久しからず
    ただ春の夜の夢のごとし
               
          ただ春の夢のごとし―

   さようなら 私の恋
    春の一夜の夢のように激しく燃え上がり 儚く波間に砕け散った恋
 

☆温もり~生まれてきてくれて ありがとう~

 初めて あなたを見たのは
   私が手術室から出てきたとき
   看護婦さんたちにストレッチャーを押して貰って
   病室に帰る途中のことだった
 
 きっと 看護婦さんたちが気を利かして
   わざと止まってくれたんだと思う
   ちょうどエレベーターが新生児室の手前にあったから
   横になっていても あなたの顔がよく見えた

 生まれたばかりのあなたはガラスの箱に入って
    心臓モニターを付けて眠っていた
    ちっちゃな手
    ちっちゃな脚
    まだ赤みの取れないしわくちゃな顔
    それでも 私の眼には世界一のイケメンに見えたよ

 これが私の息子
    待ち望んでいた我が子だと思ったとき
    思わず熱いものがこみ上げた
    ひとり目がお姉ちゃんだったから
    今度は男の子がほしかったけど
    何故か我が家は昔から女腹
    私もひとりっ子だったし
    私のお父さんも男ひとり 女四人のきょうだいだった

 今度はどうも男の子みたいですよ
    妊娠19週目に早々と告げられた瞬間
    やった~と思ったよ
    もちろん 男の子でも女の子でも可愛いことに変わりはない
    でも 周囲が今度こそ跡継ぎを期待しているのは判っていたから
    余計に嬉しかった
    私に息子ができるんだ
    うまく育てられるかな
    女親に男の子の気持ちが理解できるかな
    生まれる前から真剣に悩んだりもしたんだよ

 お姉ちゃんのときは帝王切開だったから
    今度は自然分娩できると良いな
    ひそかに願っていたけど
    陣痛が来てから
    あなたが仮死状態になったと聞いて
    涙ながらに祈った
    神様 赤ちゃんを助けてください
    帝王切開でも何でも良いから
    私の息子を無事にこの世に生まれさせてください


 腕の良い先生のお陰で
    2000年10月13日の朝8時5分
    あなたがこの世に初めての産声をあげた
 
        ~生まれてきてくれて
             ありがとう~

  今では もう一緒に並んで歩くのも恥ずかしがるほど成長したあなた
    あなたが私にくれた歓びや感動は
    あなたの成長の記録や想い出はとともに私の一生の宝物

  どれだけ韓流スターにハマッても
    世界一のイケメンは私の息子
    なーんて 誰にもいえないし
    本気で思ってるわけじゃないけど

  ママにとっては
    頼もしいくて優しい息子に見える
    
  これから どんな風に大きくなるのかな
    大人になったあなたは どんな男の人になるんだろう
    あなたの未来に乾杯
    
  12年前
    あなたと初この世で初めて顔を合わせた瞬間から
    そして これからも
    ママはずっとずっと あなたのことを見守っているからね
    

☆落日~秘められた殉教者の哀しみに思う~

    娘が今 修学旅行に出かけている
    行く先は九州
    私のときも九州だったけれど
    内容は大きく違うらしい

    修学旅行と聞いて思い出す風景がある
    あれは私が泊まったホテルの一室
    大きな窓からは
    一面の海が臨めた
    まるで見上げるような巨大な十字架が真っ青な海に立っている
    何しろ気の遠くなるくらい昔の話なので
    正確な記憶に残ってはいないが
    海岸寄りの浅瀬だったのではないか

    西の空を真っ赤な太陽が茜色に染め上げ
    空全体が燃えていた
    熟れすぎた柿を思わせる落日が
    その日最後の輝きを放ち
    黄金色の十字架をも紅く紅く染めている
    果てしもなく大きな太陽と十字架
    すべてが夕日の色に染まっていた
    島原はキリシタン殉教の歴史がある
    そのせいかどうかは判らないけれど
    夕日に染まった十字架には壮大さの中にも果てしない哀しみが漂っていた

    あの一瞬の海と空 燃え墜ちる太陽と十字架
    今も瞼から灼きついて離れない
    何度も見たい光景というものがそうそうるあとも思えないが
    私にとっては是非 もう一度見てみたい光景だ


    更に記憶を呼び起こすのは阿蘇の雄大な山々
    白い煙を上げながら
    まるで私を食らおうとする怪獣のように
    ぽっかりと大きな口を開いていた噴火口に圧倒された
    海の水よりもなお透明かつ澄み渡った水を満々と湛えた火山湖
    天空の湖と呼ぶにふざわしい西域のオアシスを彷彿とさせるような湖にも
    美しさとともにやはり自然の驚異を憶えたて
    あの水底深く沈んだら さぞ冷たかろう
    二度と浮かび上がってはこられまいと戦々恐々とのぞき込んでいた 


    そして最も印象深かったのは雲仙地獄
    ここにもキリシタンの哀しい歴史が秘められている
    踏み絵を最後まで踏もうとしなかった信者たちが連れてこられ
    煮えたぎる温泉や硫黄地獄に浸けられたという
    恐怖だけでなく美しさとロマンを感じさせた阿蘇山と異なり
    ここには ただ憂愁と苦悶があった
    あたかもこの世の最果てを彷彿とさせる岩だらけの世界
    もうもうと吹き上げる煮え湯やどろどろとした茶色の液体にしか見えない硫黄地獄
    あれに浸かりながらも最後まで信仰を捨てなかった人々
    自ら信ずるものを持つ人は何と強く 揺るぎないのだろう
    子ども心にかすかな畏怖と感動を憶えた
    私にとって あの日 見た雲仙の光景は賽の河原に見えた
    一つ積んでは父のため 一つ積んでは母のため