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水の匂いをふくんだ風

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「よかったねえ」と、桜の樹と繁った葉の間から見える青空を見上げながら彼女は言った。
「うん」と私は言った。
本当は彼女が何のことを「よかったねえ」と言ったのかは分かっていなかったのだけれど。たぶん二人でこうして逢っているに対してだとは思ってはみても自信はなかった。

「奥さんが許してくれたのは、信用? それとも、私では嫉妬の対象にならないのかなあ」
池のほうを見ながら言った彼女の言葉の真意をはかり損ね、私は即答することが出来なかった。

「あ、私も一応人妻なんだよね」と、彼女が私に向き直って言った。
「一応なんだ」
私は、ちらっと聞いた彼女の結婚生活を思い返しながら言った。一応という、すぐにでもひっくり返りそうなことばを、軽く聞き流そうと思った。

彼女も、この言葉を軽くさせようとでも言うように元気よく「そう、一応ね」と言って、池に視線を向けた。今まで聞こえなかった、ボートを漕ぐ音が聞こえてきた。

かすかに水の匂いを含んだ風が頬をなでてゆく。







作品名:水の匂いをふくんだ風 作家名:伊達梁川