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おデブちゃんの肥満外来体験記

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検査入院・後編



朝8時に目覚めた私は、ナースコールを押しました。
朝、何も活動していない状態で計る血圧と血液検査がその日取れる
最上のデータらしいのです。
私はゆうべの焼きそばパンとあんパンのことについて追求されやしないかと
ひやひやしましたが、看護婦さんは気付かなかったようでした。
空き袋は病院のゴミ箱に捨てるのではなく自分の荷物に紙袋ごと入れたので
おそらくそのためでしょう。
こすい奴もいたものです。誰とは言いませんが。


入院翌日の検査は、「体に異常があるかどうか」を調べる検査ではなく
体脂肪率とか、筋肉量とか、そういったものを調べます。
記憶は曖昧なのですが一個だけ、忘れられない記憶があります。
それがマウンテンバイクによる体力測定です!


「最後の検査が一番疲れるのよ。ごめんなさいねえ」
トレーナーの若い女性がそう言いました。
マウンテンバイクによる体力測定とは、その人がマウンテンバイクに乗って
「何キロの負荷をかけてどのくらいのスピードでこいだとき最も
カロリーが消費されるか」を計る検査のことです。
腕に血圧計が巻かれ、口には息の具合を計る機械? みたいなのが
取り付けられます。
そして少しづつ負荷をかけていきます。
今日は研究生も来ているそうで(もちろん了承済みです)たくさん人がいます。
私の通っていた肥満外来は病院側が最年長でも45歳くらいで
ほとんどが20〜30代前半の若者ばかりでしたが
今日はほとんどが20歳そこそこ。
患者とはいえ年上、みっともない姿を見せる訳にはいきません!
……とはいえ、この姿は十分みっともないんですけどね(汗)

しゃこしゃこしゃこ
「頑張って!」
しゃこしゃこしゃこしゃこ
「データ順調に取れてますよ!」
しゃこしゃこしゃこ……
つ、辛い。地味に辛い。

何が辛いかって、狭い部屋に人が一杯、その中で太っちょさん一人、
変なマスクを付けてマウンテンバイクをこいでいる……
ダ、ダメだ笑いそうになる……。こらえろ! 私!
しかしみんな真剣な表情でこちらを見ています。何、あんたたちそういう
訓練も受けてるの!? 本当に最近の若い人たちは侮れません!
------話は10ン年前に遡ります。小学校4年生だった私は、まだ小さい従兄弟たちと
一緒に葬儀に参列していました。
たくさんの大人達が神妙な顔で座っている中、お坊さんが読経を始めました。
一番下の従兄弟はまだ7歳。それがたいそうおかしかったのでしょう。
一生懸命笑いをこらえています。
やがて笑いは伝染し、私や姉、その子の兄にまで広がり、みな必死で
笑いを堪えたのでした……。
そんな記憶がまざまざと脳裏に蘇ります。デジャヴという奴です。
いけません。私はもう子供ではないのです。
苦肉の策として、私はにっこり笑みを浮かべました。
「どのくらい続くんですか〜?♪」
そう、私はもう子供ではない! 知略を巡らせ、笑いを笑顔で昇華するッ!
それが大人になるということです(本当か?)。
トレーナーさんは困ったように苦笑いすると
「もう最良のデータは取れたので……あとは体力が続くまでです♪」
何だって?


終わった……汗びっしょりです。
「お疲れ様でした〜汗、きちんと拭いてくださいね。風邪引きますから……」
おおなんて優しい気遣い。さすがは病院のスタッフさんです。
だんだん負荷を上げていったので、結構きつかったのですが、解放されました。
研究生達もほっとしたような笑顔を浮かべています。うんうん、
みんな勉強しに来たんだよね。おかしなシーンに笑ってる場合じゃないよね……。
頑張れ、若人(そんな年離れて無いけどさ)よ! って頑張るのは私でしたすみません。
「最後に、先生の診察が残っていますので、診察室の前でお待ち下さい」
は〜い。


本永先生は難しいお顔をされていました。一瞬、何か異常があったのかと
びくびくする私。が、私を見ると柔らかな表情で
「コレステロール値と中性脂肪値が高いけれど、血糖値に問題はないね。
でもこれ、今のままだと40過ぎたら上がる危険性は大だからね……
油断は禁物だよ?」
「はい。……で、これは何ですか?」
かすかに光る白い蛍光板に張られていたのは、見覚えのある医療写真でした。
しかし、私がよく見る物とは、明らかに違います。
一言で言うと、白いのです。雪原のように真っ白です。
「君のCT結果だよ」
え。え……ええええええ!?
「もしかしてこれ臓器ですか!? 小さっ」
なんか白いのに潰されそうないたいけな小さな物体。見るからに可哀想です。
先生は苦笑を浮かべます。
「女性には皮下脂肪型肥満が多いのだけれど、君は内蔵型肥満だね。
何か身に覚えはあるかい?」
「はあ。おそらくビール腹です。私、結構飲むもので……」
私の酒量を聞いて、先生は眉を顰めました。
「うーん。酒飲んで痩せられるってことはまず無いからね。
節酒か、いっそ禁酒だね。それは栄養士に相談してください」
「はぁい……」
あんなCT結果を見せられたんじゃ、そう頷くしかありません。
はぁ、酒、辞められるかな……。