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Twinkle Tremble Tinseltown 7

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weird sisters



 本物のキャサリン・リントンだってこんなに美しかったはずがない。墓を掘り返したヒースクリフたちが思わず感嘆の声を上げ、その場にひざまずいてしまったのも無理はなかった。赤土にまみれてもその黒髪は絹糸と見紛うほど艶めき、色をなくした顔は白磁人形のよう。砂糖菓子の夢でも見ているみたいに微笑んだ首がごろりと土の中から転がり出す。
 ブラック・ダリアも嫉妬するそのバラバラ具合、食事中の方はご注意を。落ちていたのは首だけじゃなくて両の手足も同様、現世での未練を断ち切れずもがいた左手は悲願を達成し、単独での脱出に成功。夜から降り続けていた雨でぬかるんだ土を突き破り、天を掴もうと手を広げていた。死せるアメリカン・ドリームが地面から生えてきたら、管理人も腰を抜かすに決まってる。掘り返したら出るわ出るわ、首に四肢にジェイソンも舌を巻くほど鮮やかに両断された胴体。ブラック・ダリア二世に黙祷を、もっとも契約には本家の如く生きたまま解体されるという項目はなかったらしく、愛しいリチウム一個師団分を飲み込んだ眠り姫の後始末は死後数時間のうちに事件現場とは別の場所で行われたと警察の見解。
 ティンゼルタウンで悪いものを含む全ての夢を一手に引き受けたシンデレラガールの名前はニーナ・ウィロックス。花も恥じらう16歳で、8ヶ月前にパパとママの元を飛び出した。子猫ちゃんが欲しがったのはガラスの靴ではなくひとかけらの愛情。手を差し伸べたのは王子様ではなくネオナチもどきの麻薬商人。美女と野獣のカップルは最初こそジンジャーとフレッドもかくやの絶妙なコンビネーションを見せたものの、一夜にして手に入れた栄華はまた一夜にして風と共に去りぬ。くだらない抗争に巻き込まれたロミオが退場した後、独りぼっちのジュリエットが自ら毒りんごをかじったのもいたしかたないと、言えるかな? 悪意(マリス)に中毒したアリス、最初から勝ち目(オッズ)などなかったドロシーは虹の彼方へ。それとも偉大なる先輩の台詞から引用すれば「灰かぶりは燃え尽きて、ただの灰に逆戻りしただけ」。
 肉屋よろしく彼女を捌いたのがどこのどいつか、警察はまだまだ読者からの情報を募集中。「お手軽な女」の名通り持ち運びやすくしたのか? それとももっとおぞましい何か――悲劇のジュスティーヌが体験したようなおぞましい何か――のため? 哀れな女の前に現れたのは青髭、プリンス・チャーミング、それともエド・ゲイン? 怪物の餌食にされる一部始終を撮影したビデオがアンダーグラウンドに出回っているという噂はただの偶然ではない? 
 とにもかくにも、この悩ましくも美しい街、ティンゼルタウンには助言者(counselor)が必要なことは間違いない。それは読者が一番ご存じのこと。



「ね、シンデレラって最後死ぬんだっけ」
 今週号のティンゼル・カウンセル誌を掲げながら叫ぶフロリーに、同じソファの反対側に座ったクリスタは器用に片眉を吊り上げた。
「馬鹿ね、泡になったのは人魚姫よ」
 居間と呼ばれる部屋はもっぱら出入りする人間の歓談用に用いられている。まず目を引くのは壁にはめ込まれている55インチの薄型テレビ。対座するよう配置されたストリップスのソファは女性が三人腰掛けると少々窮屈さを覚える。だがむしろ一カ所にそれくらいの人間を詰め込んでおかないと、広すぎる部屋はあまりにも装飾過多で寒々しさすら覚えるほどだった。

 客室が10室ほどある三階建てのこの家で、パパ・ナイジェルが女たちに客を取らせることはない。洒落たブラウンストーン造りの建物に関してだけ言えば、彼は現在のシュバイツァー博士とすら言えた。男に暴力を振るわれたり、赤ん坊を抱えて路頭に迷った女たちに無料で宿泊所を提供し、見返りは一切なしという奇特な言葉は建前。実際に仮の宿を求める女たちはそれ以上のことを知らなかったし、知ったところで彼へ捧げられる感謝の念が薄れることはなかっただろう。時折様子を覗きに来るパピーの堂々とした立ち居振る舞い、柔和な顔立ちを見たならば、どんな処女やフェミニストでもその膝に身を投げ出してしまうに違いない。
 難しいことは何一つ知らず、かといって身を投げ出す機会にも巡り合っていないミアは、喧しい女二人に挟まれ途方に暮れていた。壁に掛けられた鹿の首は冷たい視線を投げかけるばかりだし、白いソックスしか履いていない足はふわふわのラグマットに埋めているとは言え寒い。クリスタが勝手に暖房の設定温度を下げてしまったからで、それまでクッションを抱きしめてぬくぬくとソファに丸まっていたミアは、己の薄着を散々後悔する羽目に陥っていた。
「別に誰が溶けてもかまやしないわよ。だからね。いくら運命だって言っても、よく知りもしない相手といきなり付き合うのは絶対危ないってこと」
 雑誌をぱたぱたと閃かせるフロリーが、むき出しになった自らの膝を叩く。今日はこのまま仕事に行くのだろう。ダンサーである彼女の肉体は、思春期らしいふくよかさを持つミアとは反対に程良い筋肉で締まり、寒々しい空気に乾いた音を鳴らす。
「王子さまなんて現実にはいやしないんだから」
「あんたの場合自業自得でしょ」
 ミネラルウォーターをがぶ飲みしていたクリスタが甲高く切り返す。
「結局、ドクとあのマリーンのどっちが好きなのよ」
「性格はドクかな。優しいし、生活力あるし」
 組んだ膝に肘を突き、フロリーは天井を睨んだ。先ほどの現実的な言葉と裏腹に、その目が夢の彼方から帰還することはない。
「でも体は断然スリム。ドクはちょっとほっそりし過ぎてる」
「ほんと最低、あんた」
 クリスタが一人で楽しむ他人事は、周囲にも十分影響を及ぼす。ミアはますます顎をクッションに沈め、赤く染まった頬を隠す作業で精一杯。会話の糸口を掴むことなど到底できなかった。
 17で処女だなんてやっぱりおかしいのだろうか。彼女たちの話を聞いていると、自らが踏んでいるらしい間違いに身は焦げるばかりだった。
 かと言って、ここを訪れる女たちの誰もが賞賛するあの新聞記者はどう頑張っても好きになることなどできない。言葉だけで簡単に処女膜の内側へ入り込んできそうなあの押し出しにあと少し攻め立てられたら、恐怖のあまり言葉は簡単に唇からまろび出たに違いなかった。ミスター・ナイジェルも言っていた通り沈黙は金。彼女はダディの教えを忠実に守り続けている孝行娘だった。
 けれどどれだけ貞節を求められ、自らも頭では納得していても、ミアはあのとき現れた青年の姿を忘れることができなかった。ネオンは輝いているのに明るさを感じさせない闇夜の中、彼がどのような表情を浮かべ、どのように佇んでいたかなどろくに覚えていない。その胸に飛び込んだ瞬間の記憶で、それ以前の話など全て上塗りされてしまったからだ。しなやかな長身、ハンサムな顔立ち。腕の中から見上げる、蒼い瞳。親戚を除いて年上の腕に抱かれた経験など彼女は一度もなく、そもそも今までデートした人数すら片手に余るほどだった。
「で、なんだっけ。その王子様の名前」
 見開いた目に何一つ映すことができず記憶を再生していたミアの肩を、クリスタがつつく。
「知ってる奴かも」
「ユルゲン・ムーア」