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Twinkle Tremble Tinseltown 7

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rag time



 一体どのような伝で情報を得ているのか、二人が到着するよりも早く雑誌記者は部屋の中をうろうろと歩き回っていた。ジョゼフ・ルールタビュー気取りでテーブルの下を確認したり、ごみ箱の蓋を開いたり。彼の姿を確認ざま、ビフは取るもの取りあえず銅鑼声を張り上げた。
「またお前かハゲタカ野郎!」
「ひどいな。あんたの部下が現場を踏み荒らさないように見張ってやってたんだぞ」
 首を竦めたのは本来保全作業を全うするべき警官たちで、当の本人はといえば一向に頓着しない。スラックスのポケットへ右手を突っ込んだのは、既にお馴染みとなったソニー製のICレコーダーを稼働させたからに違いない。今にも持ち主の体ごと床に殴り倒して踏みつけそうなビフの肩を叩き、アウトは記者に向かって微笑んだ。もちろん歓迎している様はみじんも伺えない。痩せて青白い顔の彼が愛想を振りまく姿は、獲物を狙う爬虫類を思わせた。
「何を知っていて、何を知りたいんだい?」
「隣室からドタバタ尋常じゃない物音が聞こえたって言う婆さんの通報で飛んできたら女が首を掻き切られてたってことと、ナイキの足跡があるってこと。昼飯食ってた刑事が二人大慌てで駆けつけたってことかな。知りたいのはヤク絡みかどうか。一週間前にも3ブロック先で騒ぎがあっただろう」
「男が全裸で歩き回ってた話なら、あれはただのセコナール中毒で事件性はないよ。今回とは違う」
「余計なこと喋るなよ」
 不機嫌そうに唸り、ビフはソロの肩へわざとぶつかりながら部屋の奥へ向かった。


 町の南、モンタナ通りのアパートの居住者は九割がたが低所得者だった。もっとも犯罪者の巣窟というわけではなく、そのほとんどが年金暮らしの老人かウェイトレスをして慎ましく暮らしている若い女性。九〇年代の半ばに完成した建物は表面に緑色のタイルが貼られているが、いくつかは剥がれいくつかは割られ、強盗に入る気を起こさせないようひっそりと佇んでいた。呼び出された管理人の落ち着かない目つきは、このアパートが普段有する平穏を物語っている。記者を無視し、アウトはワルツでも踊るようになめらかな足取りではげ頭の男へ近づいた。
「ティーゼルタウン署のケント・メイヒューです。ご足労感謝します」
「本当に」
 ぼそぼそと何事か呟きながら、管理人は目を伏せた。このアパートに暮らす老人たちとそう変わりはしない年齢だ。自らの持ち物で事件が起こったにも関わらず、泳ぐ視線はこの話から逃げだそうとする気持ちをありありと映していた。アウトはスーツの内ポケットからペンと手帳を取り出した。それを上目遣いで見て、管理人はまた口の中でのみ言葉を完結させる。
「本当に呼び出されるまで何も知らなくて」
「でしょうねえ。この通りで殺人事件なんて、僕が刑事になって以来初めてですよ」
 実に器用な慰めの音色を作り出してみせる。
「ここに住んでいたのは借り主と同じ人物?」
「ああ、ええ。スーザン・ハラルド」
「何歳で、勤務先は?」
 背後で控えていたソロが首を突っ込む。管理人はますます焦り顔。汗を拭おうともせず目の前の刑事にお伺いを立てる。涼しい顔でアウトは頷いた。促されて、ようやくしどろもどろの答えを返すことができるのだ。
「26歳で、仕事は確かデパートの店員でだったと……」
「見たところ、デパートの店員って儲かるらしいねえ」
 手袋をはめると、アウトはガラステーブルに飾ってあるマルチーズを模したオブジェを取り上げた。薄い布越しにも、白い陶器の冷たい薄さと、むらなく塗られた釉薬の滑らかさを、まざまざと感じることができる。
「ターチンのコーヒテーブル、ステューベンの灰皿、ヴィンテージの置物。趣味がいいね。この部屋にある家具をすべて揃えようと思ったら、僕の給料なら丸一年はパンと水だけで暮らすことになりそうだ」
 同じくハンカチを使ってオブジェを取り上げようとするソロの手をぴしゃりと叩き、首を傾げる。
「趣味が良すぎる。26歳の女性にしては」
 ねえ、君。背後で立ち尽くすままの管理人を振り返る。頭頂部まで真っ赤に熱の上がった皮膚を見て、アウトは内心鼻を鳴らした。今日は最高気温が華氏40度(摂氏4、4度)を越えることはないって話だけれど。
「アウト! 遊んでないでこっち来い!」
 がなり声が木製ビーズの暖簾で仕切られた向こうから響く。なに食わぬ顔で一緒に付いてこようとする存在は、目だけで制した。
「助け合おう、お互いやるべきことをやった後でね」
 肩を竦めて管理人と向き合ったソロを後目に、アウトは寝室へと足を踏み入れた。


 既に長い間しゃがみ込んでいるのか肥満体型特有のふうふうとした息を吐き、ビフは亡骸の状況を検分していた。この部屋もなかなかに良い内装だった。藤色のブラインドは巻き上げられて、こればかりは薄汚い外の駐車場を窓越しに俯瞰できる仕組み。乳白色の傘を被った間接照明、白く塗られたヨーロッパ製とおぼしきチェスト。羽毛布団はふかふかとしていたのだろう。だが今カバーは飛び散った血を染み込ませてところどころ固くなり、落ち着いたクリーム色を染めている。天井にまで茶色い点描が施されているのを仰ぎ見て、アウトはため息をついた。
「ひどい世の中だよ」
「喉を後ろからざっくり」
 ビフも不機嫌を隠そうともせず、遺体の傷口を示した。
「窓から侵入してものを漁ってる時にばったり鉢合わせ、逃げようとしたのを背後から追いかけて切りかかった」
「喉を狙ったっていうのがまた」
 うつ伏せに倒れた女は黒人とは言い難いが白人でもない。出勤前だったのか小綺麗な格好で、ブラウスの襟から肩から染め上げ、黒髪をべったりともつれさせる血を洗い流せば、先ほど二人が昼食を買おうとしていたデリでうっかり遭遇しそうな容貌だった。
「突かなかった。背中その他に切りつけることもしなかった。ほかに傷はない」
 説明するビフの眉間が縦皺を刻んだままなのは、どこか反応の鈍い相棒だけが要因ではないらしかった。
「一発で頸動脈を切断だ」
「綺麗な死に顔」
 身を屈め、アウトは女の顔をしげしげと見下ろした。眠っていると言われても頷いてしまいかねない。喉にぱっくり開いた傷口を除けば。
「綺麗な部屋。顔見知りの犯行って可能性は?」
「ありえる」
 立ち上がりざま一度ふらつき、力なく投げ出された女の手を踏みつけそうになる。
「おまえ、気づいたか。この部屋」
「金持ちってことかい」
「ああ。それとあの蝋燭立て」
「アロマポットって言いなさいよ」
 ベッドサイドに控えている、ピンク色をした小さな壷を取り上げる。受け皿に鼻を近づけると、もったりと甘ったるい匂いが鼻孔を通って腹に落ちた。
「アヘンかな」
「さっき換気扇を止めてから臭いが強くなった」
「面倒だな」
 くしゃくしゃにした顔を維持し、アウトは人差し指と親指で小鼻を摘み揉んだ。
「麻薬課の連中と鉢合わせだなんて。どいつもこいつも『リーサル・ウェポン』気取り」
「引っかき回される前に一調べしておくぞ」
 ようやっと到着した鑑識にじろりと睨みを利かせる。よれよれになった濃紺のジャケットを羽織る見慣れた顔の青年が、背中を丸めて用具一式を運び込む。
「どう思う」
「何を?」
「この女」