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打算的になりきれなかった一週間

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第八章 女友達?



一応、勉強のためにパソコンは買い与えられていた。勉強と言っても
学校の勉強じゃない。将来親戚の家を継ぐための勉強だ。経営者がパソコンを
使えなければ話にならない。そう言って、中学三年の時に買ってくれた。
学校の勉強は、そこそこ出来たら何も言わないという方針の親で
子供の頃から塾にも行かせてもらっていない。俺がそこそこ以上に出来るのは、
ひとえに、それが趣味だからだ。他に趣味はなかった。読書もスポーツも料理も
お洒落もバイトも音楽も恋愛も、何一つとして打ち込めることはない。
勉強くらいしかすることがなかった。中学の時付き合ってた彼女とも続かなかったし。
だから……寿絵という彼女が出来たとき、ただ嬉しくて、大切にしようと
心に誓った。もっとも、すぐにダメになったけれど。
そして今俺は、パソコンの前に立っている。
今日------裕美と手を繋いで帰った。その結果を知るために。
黒い画面をじっと見つめる。起動したいのだが、手が動かない。俺は
やれやれと首を横に振った。
「振り回されてるな……やばいやばい」
ネットは振り回されたら終いなのだと、武蔵小路が言っていた。俺は
あまりネットはしない。正直顔が見えないやりとりというのは信頼出来ない。
メールの着信音があって、俺は携帯を見る。裕美からだった。顔文字も
デコメもない、そっけない文面。明日水族館何時、だと。お前は中国人か。
電話をかける。すぐに裕美は出た。
「電話した方が早かったわね。たまにはメールを打とうとしたんだけど難しいわ」
落ち着いた声音。俺はパソコンのスイッチを押す。
「そうだな。必要事項は電話にしよう。その方が早い」
「変な音がしてるわ。何してるの?」
「パソコン起動させて、今日の結果を知ろうとしてる」
画面を見ながら起動パスワードを打ち込む。
「……ふぅん。馬鹿じゃないの」
「ひでえなおい」
気にかけているというのに。
裕美は一息つくと「覚悟を決めてやったことでしょ。ビクビクするのはなしよ」
「女は強いなー……」
「開き直ったからね。そりゃ、強くなければ母親は出来ないわよ」
「俺、お前のこと結構好きかも」
「……」
こほん、と咳払い。おやあ?
「あなたね。そういう態度が誤解を招いて、女の子を泣かせるの」
「? そう言う意味で言ったんじゃないよ。友達的な意味で」
「……私たちは友達じゃないわ」
ふぅん。
「いったん彼氏彼女になったら、友達になることは難しい?」
「少なくとも、あなたの女友達になることは難しそうね」
「そっか」
俺はシニカルな笑みを浮かべた。「確かに。あんな粘着が付いてたんじゃなぁ」
裕美は呆れたと言いたげに
「あのね。堂々と付き合ってます宣言をしたのよ。どの面下げて友達になりましたって
言うのよ」
「無理かな」
「無理よ。そんなに女友達欲しいの?」
「うん。隣にいてくれるなら、俺を好きにならない女が良い」
今までそれでどんだけトラブってきたことか。
「あんた馬鹿? そんなのいっぱいいるじゃない」
俺はパソコン机につっぷした。
「それが廻って来ないんだよ……同盟が邪魔をして……あいつら何なんだよ、
アホは中学で卒業しろってんだ」
「それを同盟に入ってる女の子達の前で言ったら良いんじゃないかしら」
「あいつら俺見ると逃げるんだよ……きゃーとか言って」
「すでにイジメの域に入ってるわね。実は嫌われてたりして」
「婚約者の件でだいぶファンは減ったから。嫌われてるってのはあるかもな。
男子にもたまに意味無く嫌われたりするし俺」
「その、もてるのが純粋に迷惑です、って態度がいけないのよ。ありがたくなくても
気持ちはありがたいって顔しときなさいよ」
「人のこと優柔不断ってそしるくせにそれ言うか」
「そうだった」
あはは、と笑う。あのなぁ。……ま、いっか。
「とにかく。パソコンは見ない。見ても気にしない。OK?」
裕美の声が頼もしく響く。こいつは、何て言うか変わってるな。でも……逞しくて
好ましい。
こいつの言う、打算的な女に、たぶんこいつはなれない。なって欲しくない。
「でも一応、確認だけはしとく。坂口先輩が尻尾出してるかも知れないし」
「……分かった。落ち込まないでね」
優しい声。俺は頷くと、じゃあ明日10時に駅前で。そう言った。

ネット上では一人が暴れているみたいだった。文面が特徴的なのですぐに分かる。
携帯とパソコンを使い分けて、IDを変えているようだ。
昨日とは違う、しらっとした空気が流れている。付き合っているならしょうがない、
それがおおかたの意見のようで、俺は心底ほっとした。
だが……。
「あと4日か……」
そうしたら裕美と俺は別れる。最初に出した一週間という数字は、特に深い意味は
無かったんだけれども。今となっては重くのしかかってくる。
「勉強が出来ても、結構馬鹿だよな、俺って……」
少しもったいないかも、などと思うなんて。終わっている。
裕美はただ、打算的な女になりたくて、俺に告白しただけだというのに。