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打算的になりきれなかった一週間

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第六章 裏掲示板



なんだか私の周りでひそひそ話が多いと思ったら、学校の裏掲示板について
聞かされたのはその日の昼だった。クラスの仲良くない女子が2人連れで
忠告しに来たのだ。曰く、裏掲示板に悪口書かれてるよ、と。
放課後、漫研で唯と翔大と一緒に携帯を使って裏掲示板にアクセスした。
武蔵小路さんがURLを知っていたのだ。彼女も昔、そこで根暗だの
オタクだの書かれるイジメに遭ったらしい。酷い話だ。
「何これ……」
私は眉を顰める。3人の間に深刻な空気が流れた。裏掲示板では
悪口が飛び交っていた。やれ誰それの容姿が悪いだの、ヤリマンだの。
その最新の書き込みに、私のことが書かれていた。酷い根暗ブスで
最近見た目が変わったのは援助交際をしているからでは? と。
その後にネットスラングを交えながら、嘲笑する書き込みが続く。
「酷いよ……」
唯が呟く。その表情は泣きそうだ。翔大はこわばった表情で
「断定してないから、これじゃ侮辱罪も適応されないな」
「侮辱罪……? 言いたい放題よ、そこは……管理人が最悪で……」
武蔵小路さんが口を挟む。「岡村さんは……ツイッターとかフェイスブックとか
ブログとかmixiとか……してる……?」
「何もしてないわ。パソコンも持って無いし、嫌いなの、そういうの」
武蔵小路さんはかすかに微笑む。
「それは……良い傾向……持ってたら晒されるから……気をつけて……」
「晒されるって……」
「3ちゃんねるよ……知ってるでしょう……? 一度晒されたら、
無責任な野次馬が一杯来るわ……荒らされて、酷い噂を書きたてられる……」
3ちゃんねる。悪名高い匿名掲示板だ。
「……って、悪いこと何もしてないのに?」
私は言う。武蔵小路さんは頭を振った。
「真実は……ねつ造される場合もある……」
「とりあえず、管理人に連絡取ってみる。メールで良いんだな?」
「やめておいた方が良いわ中多君……当事者に動きがあったら喜んで
騒ぎが大きくなるだけ……放っておくのが一番良いのよ……」
「だってこんな……酷い!」
唯が叫ぶ。私たちはすがるように武蔵小路さんを見た。
「……放っておきなさい……これは忠告よ……動いちゃダメ……」
私たちはじりじりした思いで携帯の画面を見つめた。パケホーダイに入っている唯の
携帯の画面に表示されている最新の書き込みは13時23分。授業中だった。
だがこの学校の誰かが、こんな書き込みをしているわけで。その心当たりと
言えば、私には一人しかいなかった。
「坂口先輩……」
翔大と声が重なる。私たちは見つめ合った。無言で。


「一人で話し付けてくるわ。お前がいると話がややこしくなる」
そう言い捨てて翔大は坂口先輩がいるというバスケ部に向かった。私は唯と
一緒に帰宅する。通りすがりの生徒達が、まるで自分の噂をしているみたいで……
何か……怖い。
「大丈夫? 顔真っ青だよ……」
唯が心配そうに尋ねてくる。私はふるふると首を横に振った。大丈夫じゃない。
「翔大……大丈夫かな……」
対応を間違えたら、今度は翔大が標的になるかも知れない。いや、もうすでに
なっているのかも。最近の裏掲示板の書き込みには翔大の名は無かったけれど
パソコンの大画面で見るか、携帯でずっと手繰っていくとあるのかも知れなかった。
「中多君なら大丈夫だよ。今は裕美の方が心配。家まで送ってくから」
「公園で休憩しても良い……? こんな顔、お母さんに見せたくない……」
「……うん、分かった」
唯が頷いてくれる。もしかしたら巻き込むかも知れないのに、その優しさが
ありがたく、また申し訳無かった。


翔大から電話がかかって来たのは、パートに出ている母の代わりに夕飯を作って
母の分ラップをかけたその瞬間だった。私はテーブルの上の携帯を即座に手に取る。
「遅い!」
私の第一声はそれだった。携帯から普段通りの声がする。
「悪い。いろいろあって遅れたんだ。結論から言うと」
翔大は区切った。「説得出来なかった。そんな書き込みは知らないそうだ」
「なわけないじゃない!」
「俺もそう思うんだけど、武蔵小路が言うには、言い切られたらどうしようもないらしい。
それに、主犯が坂口先輩だとしても、その後にIDの違う書き込みがいくつかあると
言うことは、犯人は一人じゃないと言うことだ」
「……」
「……ごめん」
弱気な声に、私は腹が立った。
「何で翔大が謝るのよ」
「迷惑かけたのは事実だろ」
「だからって……おかしい! 翔大が謝ることなんてない、こんなのおかしいよ!」
理屈が上手く頭でまとまらない。ただ直感だけが翔大を庇う。彼は悪くないと。
「……裕美はさ、何で俺を選んだ?」
いきなり話が変わって、私は戸惑う。
「えーっと、もて男なら、利用するだけして別れても後腐れが無さそうじゃない?」
単純明快な理由だ。これがもてない君だったら、ストーカー化する恐れもある。
うん、そんな感じはした、と翔大は頷く。割と嫌味な奴だ。
「それ絶対に誰にも言うなよ。情報が流れたらネット上で袋だたきに遭うおそれがある。
実際に手を出してくるかも」
「ちょっと、脅さないでよ」
「気をつけてくれと言ってるんだよ。出来うる限りカバーしたいけど、
男が出たら話がややこしくなる時もある」
「……何か、一生懸命ね。本物の彼女みたい」
ふと言っただけなのに、翔大は黙り込んだ。沈黙が続く。
「予行練習」
「はあ?」
翔大の発した言葉に、私は声を上げた。
「豪農の跡取りってもてるんだぞ。今のこのご時世。いざってとき嫁さん一人
守れなくてどうする」
うわー。何て言うか……。
「……翔大って爺臭い……」
「ほっといてくれ」
ふてくされたような声が可愛くて、私はつい笑った。翔大もつられて笑う。
電話を切って、しんとした室内で、私は一人考えた。
もしかして、翔大が本当に守りたかったのは、前の彼女なのかも知れないと。