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夜になってから蝶は舞う-DIS:CORD+R面-

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廊下は御静かに。とは誰も言わない


「あの若造!無礼非礼にも程があるわい!」

古き蝶が憤慨してレヴィエス宮の長く薄暗い廊下を歩く。
このオトコ、ルドンルブ・ドルチェ。
現在のリヴァーダで最も長寿の310歳。
前陛下から八葉として仕える。
古き蝶だがその羽は目を奪われる程美しく漆黒をベースにしながらも光を乱反射させ七色に輝かせる。
つまり、相当に良質のユリカゴから生まれ、相当に良質の暮らしをしてきたことの証拠。
良家の出。貴族階級と同質だ。

リヴァーダには明確な階級社会・意識はない。-----というのが公式的な見解だ。
だが明確にないだけで確実にソレはある。

そもそもランクの高いユリカゴ、良質の死体は優先的にそういった良家に回る。
自ずとその流れ、慣習は代々継承され名門の家柄が出来上がる。

実のところは死体がなかなか手に入らなくなってからの出生率の低下は実際に死体がない、というだけではなく
こういった階級意識、名門意識がどこかで働きどこで拾ったとも知れない熊だの犬だの鹿だのといった
ユリカゴに生みつけることを拒絶したからだ。
なりふり構わなければ50年に一人、なんていう出生率はあり得ない。
とは言っても20人増えればいい程度だからリヴァーダが追い込まれてることには変わりはないけど。

名門ドルチェ家。
常に八葉に名を連ねリヴァーダの中枢にある家柄だ。
多くの者は羨望と畏怖を抱きつつ敬う。
すれ違えば皆、必ず深々と頭を下げる、そんな高い位置にいる。

「だいたいあ奴は生まれも薄汚い奴ではないか。レヴィエス宮に入ることすら汚らわしいわ!」

「かなりご立腹ですな」
後ろで声。
廊下を振り返るとケイナスが悠然と歩く。

「お前か・・・当たり前であろう。あのような者・・・」
「しかし、陛下の庇護を受けておりますからなー」
ケイナスの野太い声に皺を深める古き蝶。

「ふん・・・陛下も陛下だわ」
苦虫をかみ潰す。
この最も古い蝶に流れるドルチェ家の血統を誇りに思い自分よりも若く経験の浅い陛下を実のところ見下している。
表に出さない狡猾さは老いても健在だったがシドルフに憤慨し隠すことができなくなっていた。

「ほぉ。奇遇・・・ですな。私も陛下の昨今のご判断には疑問を感じておりましてな。」
ケイナスが口元に手を当て耳打ちするように身体を少し屈めた。
古き蝶はその老いた身体ゆえに凛とまっすぐ伸びる美しい木のようなリヴァーダの特徴的フォルムを失い縮んでいる。
それでもやはり羽は美しい。

「なんだ・・・ケイナス・・・」
ドルチェは右の眉を軽く上げて怪訝な顔。廊下には少し冷たい風が吹き抜けている。


「よぉー!古狸が揃って悪巧みかぁぁ〜」
ドカドカと泥だらけで傷だらけ、ソールの擦り減ったブーツをさらに床に擦り付けるように鳴らしながらシドルフ・ライドンが迫る。

「慎め!シドルフ・ライドン!!」
ケイナスが一喝。睨みをさらにきかせる。が、そんな睨みなどシドルフには関係ない。
常に睨みつけられるような日常にある彼にとってそんな目は単なる自分に向けられる眼差しのひとつでしかない。
いや、もはや眼差しですらない。そのへんにあるちょっと綺麗な石ころと同程度のモノでしかない。
意に介さない。

「ぁあーまったく・・・いっつもいっつも声だけはでかいねー。そこだけは迫力あるわ。
まあ悪巧みすんなら俺も混ぜてよね。悪いことダイスキ」
と言ってウインクに投げキス。どこまでも挑発する。
そのまま廊下をドカドカと過ぎ去るシドルフ。その背中の羽を見つめながらドルチェは咳払い。

「見よ。あの羽を・・・あの羽の薄汚さを。汚濁だ。汚物だ。
彼奴の羽は・・・赤みがかって気持ちが悪い・・・私はあんなに汚い羽を過去300年見た事もないわ」
「同感ですな・・・私も200年・・・見た事がない。して、ドルチェ卿・・・。
我々の次期陛下は誰がお立ちになるかご存知ですかな?」
ケイナスが顎髭を撫でながら少し口元を緩め廊下の柱を指で弾く。
特に意味のない行動だが意味深な言葉と合わせると重要な行為に見えた。
廊下の灯りが一瞬だけ揺らめいた。

「どうゆうことだ?次期・・・?陛下・・・?」
「ドルチェ卿ならば薄々はお気づきになっているでしょう。陛下の御体が思わしくないことを・・・」
「・・・ああ、そうだな。確かに最近は生彩に欠ける。昔ならこんな事態になったら即日、即刻宣戦布告だ。
もう今ぐらいなら攻撃を加えている頃合いだ」
懐かしむように、そして反面、悔やむように。

「ハハハッ。お好きですな。戦争が。
そう、陛下は生彩を欠いておられる。近い将来その座を後継にお譲りになると見てます」

「まあそうだろうな。それがどうした」
「そこで次期陛下は誰が相応しいのか・・・そのご意見を・・・」
「私の意見などなんの参考にもならんしそれは何も影響せんぞ」
「わかってますよ・・・ドルチェ卿」

ミシッと木が擦れる音。廊下のどこかの柱か天井か。なにぶん古い建物だ。

「継承権の一位を持っとるのはエレナ王女であろう」
「そうですな」
「だがぁー・・・まあシェリル王女が継承するであろうな。
エレナ王女はまず興味がないときとるし、傍目にも相応しいとは・・・」
「そうです。その通りです」
「なんだ。ケイナス。楽しそうだな・・・」

「そうですな。楽しみでしょうがありませんわ・・・」

笑い声。野太く。響く。不穏。レヴィエス宮の揺れは永遠に続く。