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夜になってから蝶は舞う-DIS:CORD+R面-

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人類の悩みは尽きない



人類種は悩んでいた。
悩み続けてきた。

「あれは!あれは何なんですか!私達特務部隊のいる場所に!そもそもなんですか、あれは!聞かされてません」
リリィ・リー・リアナは震えながらも上官に訴える。
震えるのはあの爆音を思い出すから。その恐怖。
そして自分以外の隊員を一撃で失った悲しみ故に。
さらにそれが同じ人類種の、自分が所属する軍によるものだと知り、その怒りから。

「・・・いや、うん、まあ・・・伝えてないからなー。極秘、ダシ?。
まあさ、ウチらには極秘なものがつきまとうのは普通っしょ。
アンタら特務部隊がその任務を行ったこともぉ、まぁ他の隊は知らないさ。
聞かされてないから〜。そうゆうもんだから、うん」

感情の起伏なく、そして気だるそうに髪の毛をいじりながらその上官は言葉を連ねるだけ。
悪びれない態度。当然悪いなんて一切思ってないから当たり前。

上官はジェイミー・フラン大佐。
特務部隊含め多くの部隊を統括している一人。
いつも適当なノリでフワフワしている軍人らしからぬ女性軍人。
長い金髪と、目をひく巨乳。どうせベッドトークで出世してるという噂。

「うんじゃーまぁ軍防長官に呼び出し喰らってるから行くわねっ」



人類種は悩んでいた。
悩み続けてきた。

いかに生存するかの悩みから、いかに生存圏を広げるかと悩み、いかに栄華を極めるかに悩み、
いかに誰よりも優位に立つかに悩み、いかにその地位を磐石にするかに悩み、いかに君臨するかに悩む。


「フラン大佐・・・一人生き残ったそうだね」

連邦軍事防衛局局長執務室。
ダークブラウンを基調とした落ち着いた雰囲気の漂う部屋に間接照明が少しムードを出し過ぎている。
大きなガラス板のデスクの向こう、革張りの椅子に座る長官は傍らの書類に目を通し仕事しているフリをする。

「はぁ、まあ。みたいっすね。不測の事態とゆーかー・・・さっきもアレはなにか。
一体どうゆうことかと噛み付かれちゃいました。面倒くさいんで流しときましたけど」

「・・・ほぉー、それはいかんね。番犬が噛み付くというのはいかん。しかし面倒くさいとか言っちゃいかんよ。
とにかく、その者はぁ〜あれだ。処分だよ、粛清だよ」

まだ書類を見る局長。目を合わせることをあえて拒むかのように。


「そうですね。危険ですね。あれはまだ実験段階。
正確にはさらに威力も精度も高いものにするためのプロセス、ですからね」

フラン大佐は突然割って入った言葉にとっさに振り返る。

そこには、ダークブラウンのソファに腰掛けたスーツの男。
思い返す。この部屋に入った時はいなかったはず。

「あああ、彼はトラビス・レイカー氏だ。かなり有能な方だ」
局長はわざわざ立ち上がり紹介する。それだけ重要だと言うことだろう。
目を通していた書類のことなどもう忘れている。


「あの新型のぉー・・・ミサイル・・・そう、ミサイルもレイカー氏が数年独自で研究し作り上げたものだ」

「まだまだあんな程度ではないですよ。近いうちに数百キロ、数千キロ離れた場所からでも正確に、
そして一撃で何万人と消し飛ぶようなモノを完成して差し上げましょう」

トラビス・レイカーは微笑んだ。
紳士ぶった振る舞いをしているけど、育ちはたいして良くないのだろう。
笑い方が幾分醜悪だ。その醜悪さを隠せるのが育ちのいい者だ。
中身がいくら醜悪極まりない者だろうとそれを取り繕えるのは立派な技術。
このレイカーという男にはまだ充分に備わっていないのだろう。
多くの上流階級とその中の醜い話を聞いてきたフランにとって直感で感じることだった。

首元のスカーフがキザだなとフラン大佐は思い無言で頭を下げる。好きなタイプではなかった。
まあでもスカーフの趣味が悪くてもどうせ関わることはない。適当にあしらう。

「ではその番犬の処分は早急にお願いしましょう。フラン大佐」

まだトラビス・レイカーの表情は柔らかいがやはり醜悪さは残っていた。

「え?マジ?アタシー?かなりメンドくさいっすね、それ・・・でも、まぁ・・・んーわかりましたよ・・・」





人類種は悩んでいた。
悩み続けてきた。


「やあ、レイカー君!まずは成功だな」

「連邦事務局長。わざわざ食事に招いて頂いて」

「構わんよ!食事どころか君を連邦中央に正式に招き入れたい!君はまさしく人類の救世主!
君のおかげでこの数年、人類の技術力は飛躍的に進歩を遂げた!それだけじゃあない!
もはや交渉の決裂が当たり前だった亜人種の多くを懐に入れることができたのは大いなる躍進だっ!」

連邦事務局長ハシワダ・マダムーダ。
小柄で小太り。丸々した指を転がすように喋る。その似つかわしくない綺麗なグレイヘアよりも鷲鼻が目立つ男。

「そう言って頂けると嬉しいものです」

笑顔で相づち程度の返答を打つとレイカーはテーブルの上に目をやった。
様々な肉料理が並ぶ。牛、豚、犬、猫、兎、ワニ、羊、熊、猿、蛇、コウモリ・・・
上げ出したら切りなく多くの動物種の肉が使われている。
ワニの大口をめいいっぱいまで開口させそれを皿代わりにしたこの肉の盛り合わせは
人類種が祝い事の席などに振る舞う料理とされている。
あらゆる種をその手に抑えることが出来る、と誇示している。
その傍らを彩るのは多種多様な野菜とフルーツ。
そして目玉として珍しい海の幸と言える、海人種カリプソナ族のペット、ハユタという海蛇の卵まである。
これはなかなかお目にかかれない。縁起ものと位置づけられているがそもそもカリプソナ族からこの卵を手に入れることは相当の困難なものだ。
しかしそれを目の前にしてもトラビス・レイカーは驚きの表情もなくニコニコしている。

人類にとって亜人種は手を取り合う者達ではなく抑え込む者。それを望みそれを実現させる。
そんな人類種もレイカーにとっては掌握できるモノ。
そんな自信と野望が彼の周りに渦巻く。


ここは人類連邦要人御用達の特別な場所。
飛行船・フォルトーナ号だ。
フォルトーナというのは人類発祥の地とされているフォルストレア大陸南西部にあった歴史上初めての国家の名前。
太陽の光を受けてシルバーに煌めく機体はそのフォルムも美しい。
優雅に空を舞う。ゆっくりとゆっくりと旋回している。

「景色がとてもいいですねー」
レイカーは少しだけワインに口をつけて窓の外を見る。

「そうだろう。素晴らしい。この世界はとても美しい。この美しさは人類種のためにあるのだよ・・・。
そうだ。この空だってあの翼持ちの気持ちの悪い種族が我々人類に空を明け渡したからこそ悠然とあるのだ。」

レイカーはまだ空を見ていた。近くには山が見え中腹辺りには美しい青色の壁の城が建つ。
人類というのはなかなかに美を意識する種だ。
そして確かに美しいモノを創る。しかしその美しさと引換に多くの醜悪なモノを裏側に押し込めるのも得意な種だ。
レイカーはほくそ笑みながら城を見つめそう思っていた。

「これも君が開発した新たなウイルスのおかげだよ。あれは強力な兵器だ。
人類史上最も凶悪で最も平和的で最も効率の良い兵器・・・