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宇宙列車 私の夏休み

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もうじき静止軌道都市へ



 高度3万5千メートルの静止軌道都市に到着する。
 所要時間は7日と8時間。
 時速200キロでは遅すぎる。せめて時速1000キロになれば、早く宇宙にいけるはず。

「ねえ、宇宙開発の歴史の授業が始まるわよ」
 私たちは、宇宙列車の車両の後ろ、別の言い方すれば、真下で南先生からの授業を受ける。

 私たちは放射線防御服を着ている。肌を露出する部分はない。宇宙放射線から私たちを守ってくれる。

「ねえ、いっそのこと宇宙服でもいいじゃない」
「そうね。でも大量生産しても宇宙服は高価だし。数百万円もするのよ」
「いや、20世紀の米ソ冷戦時代では、宇宙服は数億円もしたのよ」
 私たちは驚いた。

「じゃ、数億円もするなら、かなり高級なドレスが買えるじゃない。それも、どこかの国の女王様みたいに」
「そんなの税金の無駄使い。福祉を必要としている人、教育の充実させないと」
 私たちは夢から現実へと目を向ける。

「宇宙エレベーターは、21世紀の技術でも作れると楽観しましたが、建設開始が2100年代になってからです。世界人口が急激に減少してい時代。果たして宇宙開発は必要かと議論されました」
「現在の世界人口は35億人ですよね」
「そうです」
「でも、アフリカや中東では、数世紀もわたって飢餓やテロ、内戦で苦しんでいます。どうしてなんですか?」
「それは、政治の腐敗は宗教がからんでいます。本来、宗教は人間の心を正しい方向へ導くためなんです。でも、宗教がらみの戦争、また圧政は、紀元後、キリスト教が世界に広まってから起きました」
「だから、私、宗教が嫌いなの」
「そうです。誰でも宗教は嫌いです。今の時代、無神論は当たり前です」
「でも宇宙エレベーターは何のために作ったのですか」
 担任の南先生は、通路にある壁をモニターで説明した。

 静止軌道まで、あと1日。地球が小さく見える。でも、静止軌道都市は見えない。延々と続く、宇宙エレベーターの建造物だけが上下から見える。

 私たちは、ほぼ無重力状態なので、空中に浮いている。

「未来のための投資です。数百万年後、急激な寒冷化。すなわち地球が数年もしないうちに、氷の世界になり、ほとんどの生命体が絶滅します。そのためには、火星への移住。最終的には太陽系を出て、第二の地球へと移住します」
「なんだかSF小説みたい」
「でも、こんなに科学が進化した時代、SFなんて時代遅れ」
「SFという古典を傲ってはいけません。古典文学から学ぶものはたくさんあります。現代人に必要なのは創造力です。いまは生活が便利になりすぎて、いや、便利ということさえも実感できないのです」
「そうですか」
「まあ、本音を言えば、巨大事業による経済の発展。それに世界政府樹立を目指すためという意見もありますが、中東や北アフリカ地域では、厳格な宗教戒律による宗教法による全体主義国家なので、世界統一は永久に無理だと悟りました」
「そうだね。いくら日本の力が強くっても」
「かつて、TPPという『環太平洋帝国』という構想がありました。首都はワシントン・DC、すなわちアメリカ合衆国です。日本は古典的支配体制、官僚という貴族による絶対君主制で政治を行っていました。でも、ビックブラザーが日本経済を支配し、TPPを断固阻止した結果、日本はアメリカ合衆国の支配から独立しました。そして世界一の経済大国になり、アメリカが逆に日本に支配されました」
「もし歴史の歯車が異なれば、第二のローマ帝国ができたわけですね」
「そうです」
 
 南先生の話が長く続いた。宇宙エレベーターは日本やアメリカだけでは作れない。文明国が一致しないと作れない。お互いの考え方や習慣の違いを乗り越えて作れるものである。


作品名:宇宙列車 私の夏休み 作家名:ぽめ