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厄宮 殺那
厄宮 殺那
novelistID. 36716
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無能の中にも、一人くらい有能がいるはずだ

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悲惨な話である。
事実、俺のせいで家族が崩壊したといっても過言ではない。
特に何か思うわけではないが。
俺が尋ねたときは、新しい家族ができていて、半分しか血の繋がらない妹がもう一人できていた。
悲しくはなかったが、空しくはあった。
正確に表現すると、なにもないがあった。
結局なにも無かったし、何も感じることはなかった。
DNA検査で、俺の親が見つかったときは、普通に驚いたが、会いに行ったときの母親はそれ以上に驚いていた。
おどろいた、といっても、母親に会える、うれしい。
ではなかった。
母親の家族に事情をほとんど説明して、俺にも新しい家族がいることを話してから、俺は地方に行ったのだった。
そういえば、そんなこともあった。
過去のことは、思い出そうとすれば、意外と鮮明に出てくるものだ。

チャイムが鳴った。
一時間目の終わりを告げるチャイム。
結局思い出に浸っただけで、本は読み進まなかった。
ふぅ、と一息ついて、本を机の中に入れる。

俺の周りには、誰もいない。
一人で寂しいとかは思わないが、周りが楽しそうに話しているのを見ると、少しばかり引け目を感じる。感じてしまう。
俺も楽しそうに話している中に、途中参加で飛び込めるような勇気は持ち合わせていない。
まあ、一人二人、この学校に友達ができれば良い。
暇つぶし程度の話し友達ができれば良い。
それくらいにしか考えていない。
楽しそうに集まっている人の間を抜けて、廊下に出る。
端っこでボーっとしているのも、何か心苦しいので、自販までジュースでも買いに行こうかと。
自販は朝、クラスに行く途中に見つけた。
トイレの近くにあったのを憶えている。
少し離れてはいるが、十分もあれば簡単に行き来できる距離だ。
自販機の前まで歩いてきた。
「・・・・・・・」
そこには、たくさんの不良たちがたむろっていた。
絡まれるのは面倒なので、さっと、ジュースを買って戻ろうとしたが、
「おい、そこの」
不良の中の一人が言った。
引き止められてしまった。
口の中で小さく舌打ち。
「なんですか」
当たり障りの無いよう心がけて返事をする。
早くクラスに帰りたい。
その気持ちだけが頭の中を徘徊している。
「おい、お前、二年だろ」
上履きの色は学年ごとに分かれているので、それで判ったのだろう。
「はい」
小さく返事をする。
「じゃあ、俺らにジュースの一本くらいおごるのが当然じゃねぇのか?」
・・・・・・?
どこの当然なのだか。
理解に苦しむ。
「なぜですか?」
相手の気に触らないように質問する。
「俺らのテリトリーに入ってきたんなら、そんくらいするのが当然だろ、っつってんだよ」
あれれ?
俺は、どこで常識を間違えたのだろうか?
てか、テリトリーって。
「でも、俺金持ってないですよ」
あくまで、当たり障りの無いように心がける。
「じゃあ、そのジュース置いてけよ」
「嫌です」
きっぱり。
「ジュース買った意味なくなるじゃないですか?」
流石に、少し強めに反抗してみた。
「ナメてんのか?」
「いや、ナメてないですけど」
かなり呆れているせいか、棘のある言い方になってしまった。
「裏来いや」
言われるがまま連行。
成り行きで、校舎裏まで連れて来られてしまった。
かれこれ、五分も休憩時間を無駄にしてしまった。
持っているジュースからは汗が流れて、少しずつぬるくなっていくのを感じる。
イライラする。
ヤンキーたちは、総勢八人。
いつの間にか、囲まれていた。
グループのボスらしき人が、一言やれ、と言うと、周りの取り巻きが、次々に殴りかかってくる。
そういえば、この場面はヤンキーの漫画とかで、よくある風景だと、何か納得している。
そういう漫画を見ると絶対思うことがあるのだ。
なぜ、苛められっこは、反撃しないのか?
どうせ、ぼこぼこにされるのなら、せめて一人くらい殴ればいいのに。
いつも、そう思うのだった。
いろいろ考えながら、四方八方から飛んでくる拳をかわす。
だんだんと、殴っている方も、疲れて、拳が遅くなっているが見て取れる。
くだらない。
てか、だるい。
「なんだ、てめぇ」
一人のヤンキーが息を切らせながら、言う。
「なんだって」
もう、呆れ果てている。
相手にかける言葉さえ思いつかない。
「無能の癖に、アリンコみたいに固まるなよ」
精一杯考えつくして、搾り出した一言だ。
その言葉に、過剰反応した一人が、
「んだと、てめぇ!」
脇ポケットから、なにやら刃物らしきものを取り出す。
「ざけんなぁぁあ」
雄たけびと共に、取り出したカッターナイフを突き立ててくる。
ごめん。
心の中でそう謝り、顔面に一発。
鼻骨が折れる音が聞こえた。
あたりは静まり返っている。
やけくそになり、殴ってきたりはしなかった。
そこだけは評価したい。
もう、一発殴っているのだ。
次からは容赦なくやってしまっていただろう。
周りのヤンキーたちは、さっさと逃げていった。
たった一発で抑止力になるとは、と心の中でまた呆れる。
はぁ、と一つ溜息。
落ちていたナイフを自分のポッケに仕舞い、倒れているヤンキーに目を移す。
鮮度溢れる鼻血が流れていた。
「さあ、どうしたものか」
一言つぶやく。
喧嘩は初めてではない。
前の学校でも幾度かは。
もちろん、俺は攻撃しないで、適当にあしらうだけだけど。
普通なら野次馬たちが、先生を呼んでくれて場を治めるが、ここは校舎裏。
誰もいない。
春の心地よい風が流れている。
ぼーっと立っているとチャイムの音が聞こえてくる。
二時間目には間に合いそうも無い。
ひとまず、保健室に向かうことにした。
誰の姿も見えない一階の廊下気絶した人間担いで歩いていく。
異様だ。
「すいません」
保健室のドアを開けて、一つお辞儀をする。
「あら、こんな時間にどうしたの?」
保健室の先生が振り向かずに言う。
「えーっと」
何て言えばいいのか。
頭をフル稼働。
少し考えていると、先生がこっちに詰め寄ってくる。
すぐに、背負っている生徒に気付いたらしい。
「あら、その子どうしたの?」
心配そうに質問。
呆れ混じりでもある。
「あぁ、その」
上手く答えられない。
「あぁ、そういう事ね」
よくあることなのだろう、先生は察知したようだった。
「その子、鼻折れているじゃない。そんな強く殴ったの?」
ひん曲がってしまった鼻を見て、やれやれ、と言わんばかりだ。
「いゃ、そ、まぁ」
曖昧に濁らせておく。
「名前は?」
話の展開が速く、さっさと要点だけを聞いてくる。
「宮本です。この生徒の名前は知りません」
「そう、宮本君」
「はぃ」
「今日転入してきて、いきなり暴動ですか」
少し唖然。
意表を突かれた、というのか。
保健室の先生にまで、しっかり行き届いていたのか。
「何で知っているかって? 有名人よ、あなた。校長の推薦で、こんな次期に転入なんて」
考えを察知されたのか、先に言われてしまった。
「まあ」
「もう一人、いたわよね? 今日転入してきた子」
「はぁ」
適当に答えておく。
「話し込んでしまったわね。」
反省したように、小さな声で言う。
どちらかと言うと、すんなりした感じだったが。