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厄宮 殺那
厄宮 殺那
novelistID. 36716
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無能の中にも、一人くらい有能がいるはずだ

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「はじめまして、宮本陽雅といいます。今年からここに転校して来ました」
俺の新しい高校生活が始まろうとしていた。
「趣味は読書とか、好きな食べ物はグミとアイスです」
一学期の初めの始業式の後、クラスメイトの前で坦々と自己紹介をする。
賑やかだ。
いや、普通に騒がしいと言っておこう。
俺の自己紹介を全員の内何人聞いているのか、ぱっと見で判断するに片手の指で収まりそうだ。
みんな春休み明けの再会の喜びに浸っているようで、こちらのことは目に入っていない。
先生も黙認してしまっているようだ。
まあ、学年の始まりだししょうがない、とスルーしておくことにしよう。
適当に自己紹介を済ませ、最後に、よろしくお願いします。
最低限の礼儀として、その言葉を付け加える。
先生に視線を送り、終了の合図。
先生は苦笑いを見せて、拍手をする。
聞いていなかった生徒も、吊られて拍手をする。
「じゃあ、宮本君は、端っこの席、いいかな?」
席はそこしか空いていない。
嫌だ、と言えばそうなるのだろうか?どうでもいい疑問が頭に浮かぶ。
俺はそんなこといちいち質問する面倒くさい奴でもないし、はい、と一言済ませ席に向かう。
俺が席に着いたところで、先生が仕切りを取り直し、じゃあ、と話をし始める。
「これから、一年間このクラスでやっていくのですから、仲良くやって行きましょう。みんな高校二年生なのだから、勉強にもちゃんと取り組まないとなりません。くじけそうになったときは仲間同士引っ張り合って、がんばって行ってね」
先生が話し終わった直後、計ったようにチャイムが鳴る。
一年の始まりのチャイムだ。
こうして、俺の長い高校生活が始まったのだ。

私立琴姫高校。
規模はでかいが、どこにでもある、普通の高校だ。
創設者は安姫総一郎。
俺の父親に当たる男だ。
父親といっても、血の繋がっている親子ではない。
俺の過去にはたくさんの辛い出来事があった。
実の親とは幼稚園児のときに生き別れた。
そして、身寄りの無い俺を引き取ってくれたのが総一郎だった、と言うわけだ。
安姫家は代々栄えている日本の財閥のひとつで、その規模は日本でも最大級だ。
この学校には総一郎の娘二人が通っている。
安姫琴美と安姫琴音だ。
姉の琴美の方は、俺と同じ高等部で、妹の方は併設の中学校に通っている。
高等部も併設の中学校も、渡り廊下で繋がっている。
基本的には、中学生が高等部に行くことも、高校生が中学部のほうに行くのも許されてはいないが、役員などで許可を貰えば、誰でも通れる。
この二人は事実上俺の姉妹と言うことになるのだが、小学校卒業以来、一度も顔を合わせたことがない。
ここで遭っても、ただの同級生だし、ただの後輩だと、そう思っている。
昔の幼馴染も同様だ。
昔は、俺もここの併設小学校に通っていた。
俺はあまり目立っていた方でなかったと思うから、気付く人はそれほどいないと思うが、仮に憶えていたとしても、ただの同級生だ。
それに、わかっていると思うが、名字も変わっているのだから。

チャイムが鳴り終わった。
五分後には、今年初めの授業が控えている、休み時間、俺の机の周りにはたくさんの生徒が集まっていた。
転入生への質問タイムと言うやつだろうか、まあ、どこにでもある普通の風景だ。
転校は初ではないので分かる。
「宮本君って、前はどこに住んでいたの?」
女子生徒が問いかけてくる。
「田舎だよ」
かなり抽象的に答えてみたが、それ以上の追求はなかった。
女性徒も、大して知りたくて聞いてきた訳ではないのだろう、それくらいは察する。
社交辞令、みたいなものだ。
それから後も、いろいろな質問が飛び交うが、どれも抽象的にはぶらかす様に答えた。

チャイムが鳴った。
それと、同時に周りの生徒も自分の席へと戻っていく。
スイッチのON、OFFはしっかりできるらしい。
年度初めの授業だ。
たいした事はしなかった。
先生が事務的なことを話し終えたら、即自由時間だった。
もう、机に集まって来る生徒もいない。
それぞれ、思い思いに友達同士話し合っているのを、端っこの席から眺めている。
そうしていると、前の方に女子生徒を確認する。
その女性徒は、なにか不思議な難しい顔をしながらこっちを見ている。
女性徒の周りには、たくさんの女性徒が集まっていて、こっちを見ている女性徒が核的な存在になっているのが、見て取れる。
髪の毛は金髪だった。
髪は金髪なのに容姿は日本人っぽい、瞳はきれいな黒で端正な顔立ちだった。
ハーフか。
自分の中で納得する。
金髪ハーフの女性徒は、不思議そうな顔をしながらだんだんと近寄ってくる。
「こんにちは」
机の前まで来たところで、女性徒は俺に挨拶をした。
「こんにちは」
普通に挨拶を返す。
「さっきから、ずっとこっち見ていたけど何かあるの?」
流石に聞かずにはいられなかった。
「あっ」
若干声を漏らし、驚きの表情を見せる。
すぐに咳払いをして、女性徒は気を取り直す。
「貴方、ヨウガって言うのですよね?」
改まって、何を聞かれるのかと思えば。
「はい、宮本陽雅と言います。よろしくおねがいします。で、なにか?」
「いえ、昔、私の知り合いに同じ名前の人がいましたから」
・・・・・・。
「・・・・・・。」
言葉をなくした。
と、同時に全てのことを理解した。
琴美だ。
このとき、この学校で最初の再会をしたのだった。
しかし、当然のことながら、本当のことを言うわけにはいかない。
言っては駄目、と言うわけではない。
なんか、面白そうだから、言わないだけだ。
「そうなんですか」
普通にスルー。
それが、このとき取るべき一番の行動だった。
「私、安姫琴美と言います。これからよろしくね」
案の定、親切に自己紹介をしてきた。
「よろしく」
短く返して、鞄の本を取り出す。
昔とは、だいぶ違った印象を受けた。
昔は、おてんば娘とうのか、アグレッシブな性格だったが、丸く収まったというか、おとなしくなったというか、雰囲気は昔とは正反対だった。
まあ、総一郎の長女で、いずれは安姫財閥のトップになる女性だ。
俺が、地方にいる間、たくさんのことを学んできたのだろう。
弟として、素直に感心。
本を読みながら遠目で見ていると、女性徒の中心となって、話している。
こっちを見たりしないところを見ると、疑念は晴れたのだろう。
そう、これで俺と琴美は姉弟の関係ではなく普通のクラスの友達だ。
総一郎がこっちに俺を呼んだ理由は分からないが、実の親の方の名前でこの学校に通っているということは、今は、家族の関係者では無い、と言うことなのだろう。
まあ、金銭的援助さえ貰えれば何の問題も無い。
そういうお年頃なのだ。
俺も、地方に行っていた間、いろいろあって、自分の知らない何かが変わったのだろう。
成長と言う名の変化である、格好良く言えば。
そういえば、俺が地方に行った理由は、実の親が見つかったことだった気がする。
五年くらい前か、親が見つかったのは。
そのときには、もう俺の父親は死んでいた。
俺が幼稚園の頃誘拐されてから、夫婦喧嘩は絶えなかったらしい、二人目の子供が出産される頃には、もう離婚していて、父親は娘の顔を見ることなく自殺したらしい。