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あみのドミノ

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私は駅前に立っているサーモンピンクのワンピース姿が目にとまった。曇天のせいか余計に華やかに見える。まだ顔がはっきりと解らないが、亜美乃だろう。私だけが目立って見えているのだろうか。いや、時々通りすぎる男たちがちらっと見て通っていく。だんだん近づいていくに従って、それは確信にかわった。私は誇らしさを感じながら近づいて行く。亜美乃が私を見つけたらしき軽く手をあげた。私は笑顔で頷く。
「久しぶり」私は会いたくても会えなかった自分の気持ちを訴えるようにそう言った。
「そうね。色々忙しかったから」

亜美乃の久しぶりはまた別の意味でそう感じているのかも知れない。私は直感する。会社の男の子と進展があったのだろうと。最初に会った時の少女のようだった印象とは微妙に違って見える。
「女っぽくなっている。さては」
私は余裕のある大人を演じる。

「ふふふ」
亜美乃は意味深に笑った。私は小突こうとした手をさっと取り亜美乃が歩きだした。
「お父さん、今日はどこに行こうか」
「どこに行きたいんだい」
「あら、雨が降ってきたようだよ」
「どっかへ入ろうか」

私が周りを見わたしていると、亜美乃が折りたたみ傘を広げた。ちゃんと用意していたらしい。深緑の傘にサーモンピンクのワンピース、私は亜美乃に見とれる。ズキンとした感じが体の中で起こる。また中年のしたたかさでそれを押し隠した。亜美乃は背の高い私のために傘を上に上げた。脇の下の窪みに目が吸い寄せられる。ズキン。私は〈あれ今日の俺はどうかしている〉と思う。それでもまたさりげなくその傘を受取り、相合い傘の二人となった。初恋のように、このままでいい。このまま歩くだけでいい、あと何も要らないと思った。

作品名:あみのドミノ 作家名:伊達梁川