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修学旅行

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はじめてのアメヤ横丁



 アメリカの、
 アメリカンの、飴屋の街。

   『カニ、千円』

 高校二年生、秋。アメヤ横丁、アメ横、正式名称はアメ横商店街連合会(事前学習により判明)。
 山手線の御徒町駅から上野駅間の高架橋にそって伸びるその商店街を、なぜか高二の私たちは率先して自由見学地として選んでいた。当時、東上野のキムチ横丁とどちらに行くか激しく悩んだのを覚えている。まあ、つまりは名前で決めたわけだ。
 修学旅行でアメ横を選ぶ自分たちはなかなか渋くないだろうか、と盛り上がっていた矢先、私は一人の男に話しかけられた。
 「カニ」
 おかしく抑揚のついた日本語だった。執拗に押し付けてくる笑顔。
 「カニ、千円」
 あ、そうか。この人中国人なんだ。
 「カニ、千円デスヨ、カ…」
 中国人がたくさん働くアメ横。
 私はひらりと手を振った。
 「のーせんきゅー」



 あれから時は過ぎ、私は今東京の大学に通っている。通っている、といっても今はほとんど休んでしまっていて、事実上フリーターだ。
 今日はティッシュ配布の派遣バイトが入っている。これがなかなか大変なのだ。一度に二個渡してみたり、時には押し付けるように渡さないとノルマが達成できない。
 「コンタクトレンズのお知らせです、どうぞー」
 もう断ることが癖になっている日本人にはするりとかわされてしまう。今狙い目なのは海外からの観光客。物珍しさと戸惑いでほとんどの人がもらってくれる。特に最近小金を持ち始めた中国からのお友達なんかは、恰好の獲物だった。
 そうこう思っている矢先、早速、噂の客人集団が目の前に現れる。飛び交う異国の言葉。私は顔に笑顔を貼り付けた。
 「コンタクトレンズのお知らせです、ど…」
 だけど、
 客人は、ひらりと手を振って、
 「No thankyou」

 あっさりとかわされた自分の想いのやり場が見つからなくて、ただ呆然と人ごみに消える背中を見つめていた。
 「……カニ」
 ぼそりとつぶやく私の声は誰に届いたのだろう。その場にいる人には見向きもされない。セーラー服の私だけが振り返った。
 そんな気がした。

 その日の夕方、実家から制服が送られてきたものだから。

作品名:修学旅行 作家名:o.chi