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よもぎ史歌
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明智サトリの邪神事件簿

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 先生は保管しておいた新聞を、ペラペラと流し見しながら言った。
「最近ちょっとでもわからない事件は、何でも怪人のせいにする傾向がありましてね。あなたもそうなんじゃないですか? 警察があなたにうちを紹介したのも、厄介払いってところでしょう」
「え……」
 容赦ない先生の言葉に、絹枝さんはうろたえてしまう。さすがに絹枝さんがかわいそうだ。
「せ、先生! そんな言い方って──」
「第一、怪人のしわざだという証拠がどこにあるんですか? あなたがさらうところを見たとでも?」
「そ、それは……」
 絹枝さんは言い返せず、うつむいてしまった。
「お引き取りください。私もヒマじゃないので」
「……はい……」
 絹枝さんは力なく立ち上がる。そして、わたしに芳枝さんの写真を手渡した。写真の裏には彼女の連絡先が記されてある。
「あの……見かけたらご連絡を……」
「あ、はい……」
 最後にそれだけ振り絞るように言うと、ドアに向かっていった。それを見て、わたしは耐えられなくなる。
「せ、先生ひどいですよ! 人探しくらい手伝ってあげれば──」
「ム!」
 そのとき、急に先生は絹枝さんの背に走っていき、着物の帯を掴んだ。
「え!?」
 何事かと絹枝さんが振り向く。わたしも駆け寄った。
「コイツがあなたに張り付いていたんですよ」
 先生が掴んだ手を開くと、一匹の小さな紫色の蜘蛛(クモ)がいた。わたしも絹枝さんも、思わずアッと驚く。
「そ、そんな……気がつきませんでした」
 確かに帯の上なら感触もないから、くっついていてもわからない。なんとも気味の悪い話だけど……。
「……ふむ……」
 先生はしばらく手の上の蜘蛛を見て何やら考えていたけど、やがて足元の絨毯に落とし、そのまま皮靴で踏みつぶした。
「や~っもう先生ったら! 掃除するのわたしなんですよぉ!?」
 わたしの嘆きも意に介せず、先生は絹枝さんを見上げて。
「気が変わった。お引き受けしましょう」
「!」
「先生!?」
 どういう心境の変化だろう? 今の蜘蛛が、何か関係があるのかな?
「あなたはこちらから連絡するまで、自宅から出ないように」
「わ、わかりました」
 指示を受けた絹枝さんは先生に一礼し、ひとまず帰っていった。
「もたもたするな小林君。捜査開始だ」
 先生は玄関に掛けてあった帽子と黒いコートを取る。
「わ、ま、待ってくださいよ~」
 わたしは慌てて普段着ている銘仙の着物に着替える。洋服を着てる人も増えてきたけど、日本人ならやっぱり和服でしょう。まあ、わたしが制服しか洋服を持ってないだけなんだけど……。制服だと入れる場所が限られるし、捜査には向かないんだよね。
 着物の上から羽織を着て、ピッポちゃんをバッグに潜ませて。
「でも先生、捜査ってどこへ……?」
「君は彼女から何を聞いていたんだね」
 先生は大きいリボンをあしらった黒い帽子を、目深に被って答えた。
「有楽町だよ」