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紅いスポーツカー

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紅いスポーツカー



彼がごみごみとした都会から脱出したのは、二時間前のことだった。その辺りの高速道路は不思議なくらいに空いていた。だから笹島慎吾は先程から快適に車を運転していた。美しい山々に囲まれた周囲の風景は、彼を夢見心地にさえしていた。彼は半年前からそのドライブ旅行を計画し、最初の宿泊施設に向かっていた。
その平和を破壊したのは、爆音を轟かせて疾走する紅いスポーツカーだった。だが、不穏な空気に包まれたのはその車に追い越された前後の十数秒に過ぎなかった。笹島はすぐに安堵を覚え、再び呑気に脇見運転をしていた。残雪を輝かせているアルプスは美しかった。しかし、先程追い越した車が突如笹島の視界に現れた。慌ててブレーキペダルを踏んだ笹島は紅いスポーツカーに危うく追突しそうになり、肝を冷やした。その車は急激にスピードダウンしていたのである。それが自転車のようなのんびりとした速度である。
笹島の車は国産のグレーメタリックのセダンであるが、加速性能はかなり高いと、数冊の自動車雑誌には書かれていた。紅い車は相変わらず時速三十キロ程度で走っている。笹島は憤りを覚えながら、後方の安全を確認すると車線変更をした。アクセルペダルを踏み込み、イタリア製の紅い車を追い越した。
作品名:紅いスポーツカー 作家名:マナーモード