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D.o.A. ep.17~33

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敵軍の移動が地鳴りのようにひびいて、足もとを振動させる。
第3軍の将兵たちは表情をひきしめた。
(きた)
ライルの掌には、汗がじっとりとにじんでいる。
思わずふるえるそれを、剣柄をにぎりしめることでこらえた。
オークは司令部の読みどおり、第3軍担当区域でも少ない平地に現れるようである。
ただまっすぐに、彼方を見据えて待つ。
遠方に山が見える。彼が立つ平地の地続きには丘が見える。このような日に、絶好なのか不似合いなのか、雲ひとつない青空の下だった。

「ここが正念場である!」
馬上の指揮官は高らかに声をあげる。

「敵は総勢1000をこえる悪鬼どもだ!だが我らの護国の意志を砕くことはかなわぬ!
残らず地獄へたたき送れ!醜悪なる侵略者どもに、ロノアの魂を見せつけてやるのだ!!」
腰に下げた剣をすらりと抜き、天を突くように振り上げると、みなことごとくそれに続く。
地響きが近づき、太陽のもとで砂埃が躍った。

「この大地のために!陛下の御為に!―――いざ!!」
「オオオォォオッ!!!」

総員の盛大なる鬨がとどろき、第3軍の戦いは、今幕をあけた。





海軍の敗報により萎えかけた戦意が、こうして敵を目前とすることで、血のように指先までみちてゆく。
(なんだろう)
絶え間なく大地を蹴って、駆ける。
(…体が軽い)
ライルはかつてないほどの好調を覚えていた。
迫る敵の動きがわかる。振り上げる敵の刃の軌道が手にとるように理解できる。
懐に入りこんでその剣をひらめかせる。目をつぶして一気にほうむりにかかる。
自分自身でも信じられないくらいの剣の冴えだ。
まるで、今までとは異なる肉体に、自分の魂が入り込んでしまったかのような錯覚さえ懐いてしまう。
何体も何体も、ライルの剣と身ひとつが打ち倒していく。
猛攻を巧みにくぐりぬける彼の身を、返り血のみが染めあげていった。
徐々に、ひどく凶暴な気分が、彼の心を支配する。
「う、おあああああぁぁッ!!」
一体のオークに一人で挑みかかってはいけないという命令を、彼はその昂揚からあっさり無視し、最前に躍り出た。

「何だね、あの兵は?」
望遠鏡をのぞくヒュー中将が、恐ろしい勢いでオークをなぎ倒していく一人の兵を見とめていった。
そばにいた士官が同じく望遠鏡をむけてあんぐりと口を開ける。
ライルは二等兵である。軍の地位的には最下級から1段階昇進しただけの、下っ端も下っ端であった。
武成王ソードの息子のような存在という多少の付加要素を持つが、有名なのはその事実だけで、実は、ライル自身を知る者はさほどいない。
無論、その士官も、彼について知るよしもなく、かぶりを振った。
「…我が第3軍に、あのような兵がいたのか」
深く感心したようにヒュー中将は目を凝らす。爽快なまでの戦いぶりである。
だが、別方向を見つめていた士官は、ぎょっとした様子で顔を青ざめさせた。
「―――感心している場合ではございません、ごらんください閣下!」

切羽詰まったような声にしたがって、ヒュー中将は倍率を下げて、より広範囲を見渡せるようにした。
オーク軍団が、翼をひろげるかのごとく展開しはじめていたのである。
作戦では第3軍は、その数の優位を生かして、オークを包囲するつもりだった。
ところが、オーク軍団がめいっぱい引き伸ばされたら、包囲するにはこちらもそれ以上に展開せざるをえなくなって、うすく広くなってしまうのだ。
そうなったら結果、どうなるか。
第3軍は、オークの進撃を防ぎきれず翼はうちやぶられ、戦場はほどなくてんでばらばらになる。
「ま、魔物のくせに…なんていやらしい戦い方をするのだ」
そうならなくとも、一角がくずれたら、逆に包囲される可能性も出てくる。
「まずい。…早く包囲してしまえ…!」
ライルの強さは特別である。ほとんどの兵は、一対一になればまず勝てない。
ばらばらになってしまったら、数の優位など無意味になる。
個々に撃破されて、やがて第3軍は敗北におちいるであろう。
かようなヒュー中将の切望もむなしく、オーク軍団はみるみるうちにひろがってゆく。
ライルがその翼に穴を開けんと奮戦するも、所詮は1000以上のオークからなる壁に、針の先で攻めているかのごとき効力であった。
(…あの時、あの中佐の言葉を聴いておれば)
などと悔いても、もう遅い。
最前で、第3軍の兵をあしらう間に、オークは展開を完了したらしい。
さほどの数はないので、行動の完了も第3軍よりずっと早かったのである。
第3軍はというと、まだ包囲すべくもたついている。
作戦どおりオークを包囲せしめんとする第3軍へ、それらがまるで波のように襲いかかる。
「…!」
どうすればよいのか、ヒュー中将は唇をわななかせた。
オークのふるう暴力に倒れてゆく兵たちは、このまま何の策も講じなければ増えてゆくばかりになる。
そして、もうひとつ重大な問題があった。
この戦いは、この防衛戦争がはじまって初の陸軍の、大規模ないくさである。
緒戦での結果は、軍全体の士気を大きく左右するはずだ。
海戦はまったく土台のちがう戦いだったので、陸兵にはさいわい、そこまで深刻な士気の低下を与えなかった。
しかしこの戦いはちがう。
おいつめられていくのを見つめて、ヒュー中将は苦悩し、脂汗をにじませた。

―――その時だった。


作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har