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D.o.A. ep.17~33

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ヴァリメタルによって凶暴性などを抑制されていた魔物が、にわかにそれを取り戻したかのように活発になっている。
一説には、あの任務のときに砕けてしまったといわれるが、洞窟に入ることができないので、確かめようもなかった。
ともかくそれを掃討することは、演習の一環、被害を減らすこと、戦争に突入した際の邪魔をとりのぞいておく、という、一石三鳥になる。
予備役以外の兵士たちは、演習の一環でそれらの討伐も命ぜられ、日々血と汗を流すのだった。

「い、ッタタ…」
「がまんしなさい、男の子だろう」
「あだだ!」
痛みに呻けば、おっとりした声がぴしゃりと返して、更に薬を塗りこめられる。
今日の討伐演習にて、不意をつかれたライルは、うっかり魔物の爪をかわしそこね肩に傷を負った。
終わってからリノンを頼ろうとしたが、絶えぬ怪我人の治療に奔走しており、とても恃めそうにない。
放っておくのも気になるし、かといって自分で何とかするには位置が悪かった。
そこで、かつて世話になった恩人である老齢の男が脳裏をよぎったのであった。
トータスの老舗菓子店「トータス屋」の「れもんかすていら」をこよなく愛する老医。
名を、シャーリフ=マーリスという。

「だって…これ、絶対、普通のやつより…しみる」
「病院で使ってるやつじゃないからね。わたしの趣味で作ったやつ」
「だ、大丈夫なんすかそれ」
「失礼な、病院のよりいい材料使ってるよ。そのぶんよく効くハズ」
ハズっておい、と心中抗議したが、あえて口にはせず黙っておく。
いつかの要求どおり、行き際に「れもんかすていら」を購入、持参した。会うのはあの時世話になった以来である。
忘れられていると覚悟していたが、「君ほど回復の早い男は見たことない」とのことで、喜んで迎え入れてもらえた。
最近退屈で、来客が嬉しかったらしい。「れもんかすていら」は切り分けられ、ライルの前にもおかれている。
「まさか本当に持ってきてくれるとはね」
「だって、そう言ってたから」
「君のこと見くびってたよ。いやはや反省」
その時、玄関で扉が開き、誰かが入ってくる気配があった。
静かな足音とともに、軍服の、髪をなでつけた短い口ひげの男が姿を見せる。30過ぎくらいだろうか。

「ただいま父さん、お客さんですか」
「おおフランツや、おかえり。そうさ、私を訪ねてくれたのだよ」
息子らしい。穏やかな眼差しが似ている。清潔感と誠実な感じが好印象だった。
「服装から察するに我が王国軍の軍人のようですね。はじめまして、陸軍中佐のフランツ=マーリスです」
「あ、いや…ご丁寧に、陸軍二等兵のライル=レオグリットといいます」
「ほう、では君が武成王閣下の」
畏まって襟を正し名乗り返すと、フランツは幾分か驚きを隠せないようだった。
「ああいや、俺は全然たいした者じゃなく…」
「フランツや、そんなことより、彼の土産のれもんかすていらがあるよ。切ってあるから食べておいで」
「お土産などよろしいのに…。 しかし僕ら父子揃って好物なんですよ。有り難く頂戴してきます」
ぺこりと頭を下げて、奥へと消えていった。
「…さっきから気になってたんすけど、この家、もしかして二人だけ?」
「さよう、妻は一昨年ね。あいつも39にもなって結婚もせずに、ヒマあれば薬の研究ばっかりやってるの」
ライルの見立てより年齢が上だった。シャーリフは嘆かわしいといわんばかりに額に手をあててため息をついている。
「ああ、せめて孫の顔見てから死にたい」
ぼやきはじめた。さほど女性受けの悪そうな感じではないが、本人にその気がないのだろうか。
「なんにしても、まず敵を退けてからですよ」
「おお。そうだったな。これからも大いに奮励努力してくれ」

包帯を巻き終えてもらうと、皿の上のれもんかすていらにとりかかった。
やさしい甘さと、さわやかな酸味が調和した味が、舌をとおして疲労した体にしみわたる。
「うまいっ」
「だろう、だろう?」





陽のすっかり落ちた王都は、なお人の往来が多い。
しかしながら、みなどこか不安げで落ち着きのない様子で、それが全体として陰鬱なる印象となっていた。
浮かぬ顔を見るたびに、ほんの下っ端ながら、何とかできるのは自分たちだという自覚を改めるのである。
(頑張らなきゃなあ)
己に戒めながら、草臥れた体を一刻でも早く休めるべく、帰途につく。
ふと見ると、通る道ぞいの植え込みの石垣に、貧乏揺すりしながら座っている男が、街灯に照らされていた。
男の落ち着きなさは、町をゆく人々の漠然としたものではない。
そしてその男を知っている。
キース=ジーン。妻のマルローネことマリーとともに、ラゾーの村の数少ない生き残りだ。
「あの、どうしたの」
「! ら、らい、ライルかッ」
肩をたたくまでまったく気付かなかった彼は、職務質問を受けそうなくらい挙動不審だった。
ひどく強張った顔をしていて、にぎりしめたこぶしが震えているのだが、ライルが声をかけた途端おどろくあまり跳ね上がるように立った。
異様なくらいにぎらぎらした目で、「お、おど、脅かすんじゃ、ない」などとどもって、再び腰かけて貧乏揺すりを再開する。
寒くもないのに、歯の根が合っていない。

「う、うまっ、うま、うま」
「なに言ってんだかわからない、落ち着いて」
「うま、産まれるんだっ」
「…え」

彼の前には王都立病院がそびえていた。


作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har