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D.o.A. ep.17~33

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通常、よほどの未開国家でもないかぎり、ある日突然名前を聞いたこともないものたちが宣戦布告してくるなどということは、まずない。
そのありうべからざる事態が、しかし現実であった。
どこの国が、どのような理由で戦いを望んでくるのか。
どれほどの数で、どの方角からやってくるのかさえ。
そもそも基本的な―――敵の名前が、どこの何者であるのかが、わからない。
敵勢力の情報が、絶望的なまでに不足していた。
それでもラドフォード大将のいうとおり、このロノアの四方が海であるというのが、最大の救いであった。
敵といえば海から以外にないロノアは、もともと海上警備を重視していて、その戦力は世界で五指に入ること堅かった。
そんな海軍のさらなる増強を提案したのが、就任して間もない武成王ソード=ウェリアンス、そして当時海軍中将だったカイ=エンボリスである。
頭数は無論、船の質、航海技術、索敵能力、射撃技術、もともとすぐれていただけに、比肩できる国は早々になくなってしまった。
ロノア誇る大船隊は、そこらの国が連合してきても、じゅうぶん迎え撃つことができるほどの力そなえている。

華々しく君臨する海軍にくらべると、陸軍のほうは地味であった。
大陸より比較的国民総数が少なく、その分だけ人数においてどうがんばっても頂点に届かない。
まわりが海で、陸続きに他国家がないこともそうだが、いまひとつ理由がある。
―――トータスの魔物は、ほかの大陸と比べると弱い。
とは、程度の差あれ割と有名であり、近年の研究でそれがヴァリメタルによるものだとわかっている。
かのいたましきラゾー村虐殺事件の魔物どもを、フェルデ中佐以下十人に満たない兵で始末できたのも、トータスならではである。
とはいえ、ヴァリム洞窟が崩落したかの日から、魔物の脅威は右肩上がりに増しつつある。

幸いなことに、予備役の軍人たちは、予定していたよりスムーズに訓練を進めることができた。
基礎体力もさほど衰えていず、倒れる者は数週間すぎた今もごくわずかにとどまっている。
それにともない、上層部の後手を不安視する空気も流れはじめていた。
敵がいつやってくるのか、はともかく、何処から何者がやってくるのかさえ、いまだに皆目わからぬとはなにごとか、という、苛立ちである。
―――不意打ちでやってくる卑怯者に我が軍が負けるわけがない。
などという理屈でまとまっていられるほど、人心は単純にできていない。
敵がやってくるのは今日か、明日か?
もしもとてつもない大軍がやってきたら?
音沙汰なしが長びくほど、軍も民衆も、想像力を働かせはじめ、不安に揺れた。







王都モンテクトルでは、最近人が増えている。
海岸線沿いや、人里はなれた村落に住まう人々が、その来るべき日に備え、家財一式を持って、集落単位で住処を求めてきているためだった。
役所には問い合わせが絶えぬときく。このような戦前状態は、一体いつになったら終わるのか、という内容が主であった。
しかしわからぬものは答えようがない。
毎年城下で欠かさず行ってきた、予定では近々だったはずの王国祭も、中止でほぼ決定のムードが漂っている。
物資は軍へ優先して流れ、祭りなどやって浮かれている雰囲気ではない。
外国からの渡航や出国も可能なかぎり制限され、次第に苛立ちだけでなく息苦しささえ感じられるようになっている。

「王国祭を、決行したい」
「へ、陛下?」
ある日、会議にて、国王であるセヴァルズ=ジュラルディン=ロノアはそう言い出した。
大臣や武成王らは一同、ぎょっと目をむいた。
ことわっておくが、それなりの齢であるものの、だんじて彼はもうろくなどしていない。賢く正しい君主だった。――はずだ。
顎の髭を撫でつけると、国王は臣下たちの表情を順々に眺めていく。
「このところの働き、まことに大儀である。しかしながら、今民の心は不安に閉ざされつつあると見る。違うか」
「おっしゃるとおりですが…」
「余はけっして乱心などしてはおらぬぞ、武成王よ。その鬱憤を、祭りによって晴らしてしまえぬか、と思う」
平時散々心していたのに、こうして戦いを目の前にすると、そのことしか考えられなくなっていた。
この、いつ来るやも、という緊張状態がはたしていつまで続くかなどわからない。―――しかし。

「しかし陛下、祭りの最中にもし敵襲があったら…」
「…いや、多少無理をすれば、出来ないことはございません」
ソードは臣下の間から漏れた不満に首をふって、その巨体をイスから起こし、
「陛下のお言葉にしたがいます」
と、賛同の意を示した。その後、ただし、とつけ加える。
「例年どおりの規模で行うのは無理かと存じます。警戒をおこたるわけにはまいりません」
「―――さて、ソードはこう言うてくれておるが、大臣らはどうか」
大臣諸賢は何か言いたげな面持ちだったが、しぶしぶ、小規模になさるのであれば、と首を縦に振ったのであった。



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作品名:D.o.A. ep.17~33 作家名:har