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杉が怒った

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第4章 水袋に穴をあける



豊田は、自分がいかにこの工事のことに無知だったことを知った。問題はトンネル工事なのであった。インターネットで次のような記事を見つけた。

――植生の豊さの大きな理由は2点ある。ひとつは、日本列島の冷温帯と暖温帯の境目に位置しているという地理的条件。北側斜面には広葉落葉樹、南側斜面には照葉常緑樹の森が広がり、これに渓谷林や針葉樹林がかさなっている。もうひとつの条件が、水の豊かさである。尾高山には、あちこちで湧水があり滝や沢をなしている。大地殻変動で一気に立ち上がってできた山であるため、地層はほぼ垂直に近く、その地層と地層の隙間が水道(みずみち)となって、山のおなかの中を縦横無尽に走っている。つまり水の塊のような山なのである。この水の豊かさが尾高山の生物多様性を保証している。このトンネル工事は、上り線下り線の2本、10m の大穴を山に穿つ工事である。これは水袋に槍を突き通す行為に等しく、トンネルは山の水脈をズタズタにしてしまう――


作品名:杉が怒った 作家名:伊達梁川