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杉が怒った

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第2章 尾高山



――東京郊外にある尾高山は、暖温帯系の照葉樹林帯(カシなどの常緑広葉樹)と冷温帯系の落葉広葉樹林(ブナ・イヌブナ・ナラ・ホオノキなど)・中間温帯林(モミ・ツガなどの針葉樹林)の境界に位置するためと、地層がよく水を含み湧水も多い。また植生が豊かであり、しかも都市部に近い割には比較的よく保たれている。杉の木も結構多い。――


まだ新緑にも早い時期で、草花も花をつけていないせいか普段より歩いている人が少ない。たまに下山してくる人に「こんにちは」と挨拶をしながら豊田は坂道、緩やかな道という繰り返しをいくつか歩いた。やがてベンチのある休憩所に到着した。正午少し前だった。ベンチで昼食をとっているグループがいる。ただただ喋り続けるおばさん達。結構老齢と思える女性も多い。デスクワーク、それも自宅でという豊田は、休日にはなるべく歩くことにしている。一緒の相手がいない時は、この尾高山を歩く。

豊田は、目の前に立ちはだかる長い急坂の階段を見る。ここを登りきれば山頂なのだが、うんざりして脇道に入る。中腹を少し歩くと、他のコースで山頂に向かう場所に合流する。山頂までほんの少し急坂を登ればいい。昨年は彼岸頃雪が降って、やはり同じ頃、ここにきた時に雪を見たことを思い出しながら歩いた。

山頂には普段より少ないとはいえ、結構人がいた。豊田は、どうしても富士山の見える方角を目指して歩いてしまう。だが、上空は晴れているのに富士山の方角には雲が多かった。近づいて目をこらしても富士山は見えなかった。豊田は軽い失望を感じながら、お昼を食べるためにベンチのある方へ向かった。陽の当たる暖かそうな場所にはもう人がいっぱいだった。女性は数人連れが多いが、男は一人が多い。平日に団体の一部になっているだろう男たちは、一人のほうが開放感があっていいのだろう。豊田も独りだったが、もう当たり前のことであって寂しくて仕方がないということもない。ただし、皆がわいわいいいながらお昼を食べているそばで、独り昼食をとるのも侘びしいと、少し下った所にある休憩所に向かった。


作品名:杉が怒った 作家名:伊達梁川