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僕の村は釣り日和9~秘密兵器

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 先生が何かしゃべる。しかし、それは僕の耳から耳へと抜けていった。僕は斜め前の小野さんを見つめ続けていた。ふと、黒板に目を移す。そこには完全に消えていない相合い傘が、うっすらと残っている。僕は少しそれが嬉しかった。

 放課後、僕は東海林君の背中を追いかけた。
「おーい、待ってくれよ。今日は秘密兵器の実験やろうよ」
 僕の声に東海林君が振り返る。
「今日はデート、いいのか?」
「君までそんなこと言うのか?」
「ははは、冗談さ。じゃあ、後であのため池で実験しようぜ」
 僕はあのザラ?がどんな泳ぎをするのか、早く見てみたかった。
 僕は急いで家へ帰ると、ランドセルを置き、ため池へ向かった。東海林君が以前、カムルチーを釣った、あのため池だ。
 僕がため池に到着してからしばらくして、東海林君は釣竿を担いでやってきた。ブラックバス用のゴツイ竿だ。リールも太鼓型のベイトキャスティングリールを付けている。例のカルカッタ200だ。
「それで釣るのかい?」
「渓流用の竿じゃあ、あのルアーは投げられないし、うまく操作もできない」
 竿の先には秘密兵器のザラ?がぶら下がっている。
「ずいぶんと太い糸だね」
 リールに巻かれている糸はブラックバスを釣るにも太そうな糸だ。これでは海で大物を狙うような糸だ。果たして警戒心の強いイワナを、こんな太い糸で釣れるのだろうかと不安になってしまう。
「ふふふ、心配ご無用。それは釣り方によるからさ」
「釣り方による?」
「そう、水面に糸を付けないからさ。今日からはそのための訓練をみっちりするんだ」
 東海林君の瞳が輝いた。僕は脳天に衝撃が落ちた。
 糸を水面に付けない釣りなんて可能かとも思う。だが、東海林さんの瞳には、不可能を可能にするような力がこもっていたのである。
「ちょっと、あんたたち何やってるの?」
 その聞き覚えのある声に僕たちは振り返った。そこに立っていたのは小野さんだった。
「彼女のお出ましだぜ」
 東海林君がクスッと笑って言った。僕はどう返答していいのかわからなかった。東海林君の前では、素直に感情を表してもいいと思う。だが、やはり気恥ずかしい。
「あんたたち、まだため池でブラックバスを釣っているの?」
 小野さんが興味深そうに寄ってきた。
「違うよ。釜の主を釣る秘密兵器を試すんだ」