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チャーリー&ティミー
チャーリー&ティミー
novelistID. 28694
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八咫占札の日常 大アルカナ

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THEFOOL 愚者 すべての始まり


「ふむ、星の正位置ですか。この家を放棄しろという暗示ですね。」
その男はカードをめくってつぶやいた。
彼のいる場所は4畳半の部屋。うち2畳は布団で制圧されている。
そして残りの2畳はテーブルに占拠され布団の上もタロットカードがスプレッドを形作っている。
男自身はというと目に大きな隈ができていた。
「(ペラッ)女教皇の正位置。神秘的な場所。(ペラッ)運命の輪正位置。転機。向上。(ペラッ)世界正位置。約束された成功。(ペラッ)月逆位置。成功。」
男はすっと立ち上がった。長く伸びた髪からフケが舞い落ちる。
「ちょうどいい天気ですね。車に乗って出かけますか。」
男は独り言をつぶやくとテーブルの上に置いてあった冷めたコーヒーを飲み干す。少しカビが浮かんでいたが男は全て飲んでしまった。そしてこれまた冷めたトースト(2日前のかじりかけ)をかじり、冷蔵庫の中の卵(消費期限切れ)を手馴れた手つきで割って飲む。そしてたった一枚しかないコートとこれまたたった一枚しかない汚れたTシャツ。そしてボロボロのジーンズを履いてテーブルの上の鍵をつかみ外へ出る。
男の部屋のポストは新聞とチラシでゴッタ返している。なかには3か月前のチラシもあった。
「う……すごい日差しですね。」
そう言うと男は手にもったタロットをかき混ぜる。そして一枚のカードを引いた。
「聖杯の5 正位置 期待したほどではない財産。」
そう言うと男は目の前に落ちていた壊れた傘から布を取る。
「どうせなら日傘が良かったのですが……ハァ……まぁこれも神のお導きなのでしょう。」
男は布を頭からかぶると近くにある駐車場へとかけて行く。
そして男は光岡自動車のマイクロカーに乗ってどこかへと出かけていった。

その男八咫 占札は信号で止まっている間に剣の一のカードをくるくると回し方向を決めて運転していく。
八咫は最初に左へ、次に右へ、後ろを指したのでUターンをする。
そして気づけば古いアパートの前についていた。
「ふむ。ここですか」
八咫は家を指す剣の1をカードケースにしまうとアパートの中にズケズケと入っていった。
「ふむ。部屋の大きさはまぁまぁですね。少し大きすぎますが。」
そのとき八咫は後ろから肩をつかまれる。
八咫は気にせずタロットを引く。
「(ペラリ)聖杯の女王。正位置。善良で公正な女性。(ペラリ)女教皇。正位置。神秘。」
「私はここの大家。貴方は入居希望者?」
八咫は女性には構わずタロットをめくる。
「(ペラリ)戦車正位置。前進。勝利(ペラリ)運命の輪正位置。チャンス。」
女性は八咫に構わず話を続ける。
「ここは『めぞん跡地』。少々個性の強い人々が暮らすアパート。ここにこれたということは、貴方も何らかに、いえ、その様子ではタロットに引かれていらっしゃたのでしょう」
八咫がここで初めて大家の顔をのぞき込む。
陶磁器の様に白くきめ細かい肌に、なぜか黒髪の縦ロール。
俯いていて、顔はよく見えないが、歳はどうも三十代後半の様子。
かなりの美女であったがあいにく八咫の好みではなかった。
しかし八咫は確信している。これが自分の転機。今朝引いた運命の輪を表す人物なのだと。
「ふむ、(ペラリ)コインの10。利益。財産。家族。……家族。わかりました。ここに住ませてください。」
八咫は頭を下げてたのみこむ。
大家はフフッと笑うと八咫に鍵を渡す。
「これは貴方の部屋202号室の鍵。お風呂とトイレは共同。それから……」
大家がそう言いかけて、不意に沈黙が訪れる。
その沈黙を八咫は破る。

「(ペラッ)世界。ここはあの世とこの世の狭間。とでもいいますか。何が起きてもおかしくない」
「飲み込みが早くて助かるわ。ようこそ。メゾン跡地へ。」
八咫は自嘲気味に微笑むと大家の手を握った。それは下心というよりも挨拶の意だった。
八咫は一旦アパートを出ると、マイクロカーに乗ってもともと住んでいた部屋へと荷物を取りに急いだ。