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徴税吏員 後編

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7「情報収集~だから何?財産を探し出せ」
 
 夏が終わり、秋に入る。この頃まで自動車税の滞納を続けていると、住所ごとに各担当に滞納者が割り当てられる。
 そして電話で催告が始まる。皆真面目に催告して納付にこぎつけようとするが、大沢はやる気がない。他税目と違って、督促から複数の文書催告をしてもなお滞納を続ける自動車税の滞納者に今更催告をしても電話代の無駄としか思えなかったからだ。和などは催告で納付にこぎつけようと何度も「払ってください」を連発する。しかし、大沢は冷ややかな目線でそんな光景を見ている。大沢も仕方なく電話するが、聞くことは「納税したか?」と「今後の納税の見込み」である。ほとんどが見込みなしと色眼鏡で見ている。
 並行して財産調査が行われ、勤務先や預金口座などの基礎情報の収集も行われる。催告をやる気のない大沢だが、こちらは熱心に取り組む。勤務先や預金口座の判明した滞納者の滞納整理カードには付箋をつけ、給与や預金の差押ができないかその機会を窺う。
自動車税の徴収とはいっても、1人で1,000件近くを受け持つため、徴収にも優先順位がある。まずは、過去の未納が解消されないまま今年も滞納を重ねる滞納者が最優先に徴収の対象となる。
 担当地区替えに伴い、和から大沢に引き継がれたそんな自動車税滞納者。これまでの顛末を読んでも、親族関係や個人的なエピソード、子が役者の卵というようなゴシップばかりだった。それはそれで相当の情報が記録されているが、肝心の徴収に結びつく情報がない。大沢は不審に思い、和に聞くも、これは滞納者の家に催告に出向いた(臨戸)時の世間話を積み重ねた記録だという。
 大沢が淡々とした口調で酷評する。「こんなのは調査ではない。お前は国税徴収法141条を正しく理解していない。これは滞納処分のためでも財産調査でもない。何のためにわざわざ本人と接触までしたのか?」
和は「催告のためです」と言いかかったが、徴収できてなかったのは事実なので反論できなかった。

 市町村から勤務先の情報が出揃った。給与所得者と見られる者には全て給与差押の準備となる給与照会文書を滞納者の勤務先に送る。しかし、そこで羊田の担当する案件で事件が起きた。雇用主から「そこ(給与差押)まで関わらないといけないのか」と言われる。その雇用主曰くその滞納者は仕事ぶりは優秀であり、滞納ということを教えられるのは不愉快だ」と言われた。それで回答は送らないと言う。
相談を受けた田村・狩野が説得に臨むが結果は同じ。
「私が持っている滞納者にも同じ雇用主から給料が出ている人がいます。私からも雇用主に話をさせてください。」
 大沢はそう、自ら雇用主と話すことを申し出た。
「既にうちから何人かお話させて頂きましたが、誰も申し忘れていたことがあります。その文書は国税徴収法141条によると書いてありますが、それには続きがあります。同じ188条には「第141条(質問及び検査)の規定による徴収職員の質問に対して答弁をせず、又は偽りの陳述をした者」と「第141条の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は当該検査に関し偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類を提示した者」は「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」との規定があります。別に我々はその人の人格を否定するものでもなければ仕事ぶりに対してケチをつけるものでもありません。いわんや、そういう人を雇っているあなた方も何ら批判するわけでもありません。確かにお手数をおかけしますが、それでも正当な理由なく拒否というならば我々もそれ相応の対応を考えなければなりません。 」
 大沢は罰則規定を持ち出し、雇用主と掛け合った。雇用主は「そういうことなら」と納得し、給与照会に応じることを約束した。
 「今度から債権照会関係の文書には罰則規定も付記しておかないとな。」
 大沢はそう皆につぶやき、席を外した。

8「信じていたのに~ある滞納者の裏切り」

 ある農産物製造販売会社、個人事業の頃の個人事業税・そして法人化してからの法人二税、更には役員個人名義での自動車税など、違う名義で数多くの滞納がある。総額で40万円近くになるだろうか。住所も複数地区にまたがっているので、大沢と和の担当分で分かれていたが、徴収の効率化のために2人合同で一括して徴収することとなる。大沢は初めてなので、現場を見たいと和の臨戸徴収について行くこととした。
 以前からここを担当していた和の話によれば、最初は全く取り合ってもらえないことが続くが、和の必死の説得により、いくらか納付されるようになっていたと言う。
事務所に入る。ここで製造販売しているというお茶が出される。葉から自前で製造しているというこのお茶、確かに市販のお茶に比べれば格段に飲みやすく、質が高い。徹底的に質にこだわっているのが素人にもわかる味だった。
 応対する経理担当役員の棚田景子によれば、取り扱ってくれる店も増え、ネット販売も好調、売上はうなぎのぼりで上昇中という。お茶に限らず、確かにここのブランドの製品は熊本市内の百貨店や、その系列の高級食料品を扱うスーパーでも見かけた記憶が大沢にはあった。少なくとも羽振りは良さそうだ。そして、今回の納付分として1万円を差し出した。和の担当するぶんの自動車税に充てられる。そして世間話、棚田は「お金が欲しい」を何度も繰り返す。
 しかし、繁盛している割に納付額が少ないことに大沢は疑問を持つ。なぜ、羽振りが良いのに1回1万円の不定期分割納付なのか?「お金が欲しい」というが、そんなに資金繰りに困っているようにはどうしても見えない。品質は高いし、経理関係もきちんとしている。滞納する理由が大沢には見つからなかった。

「財産調査を徹底し、それでも何も出てこないなら捜索に入るべきと考えます」大沢は狩野と田村に方針を聞かれ、そう答えた。
「信頼関係が壊れる。十分な納付はしている」と和は抵抗するが、「いずれにしろ財産を把握していないのは問題だ」という狩野の業務命令で財産調査を行うこととなる。
財産調査の結果は大沢の見込みのとおりだった。潤沢な預金・売掛金が発見される。その他にも不動産や保険など、叩けば埃が出るように次々に財産が出てくる。法人、代表者個人、そして棚田の財産も調べたが、いずれも十分な差押可能財産が出てきた。売掛金の振込だけでもかなりのものがあり、借入金(反対債権)を差し引いても、1回の差押で足りるほどの十分な残高がある。
「これだけ財産があるならば、そもそも滞納するのがおかしい。一括納付できないのがおかしい。」
 大沢はそう和に言う。和も反論できなかった。ただ、そう言いながら棚田が預金を引き出しに行ったときに借入金の返済が滞ったため口座が凍結されていた話をしたことを思い出し、経理はできても債務の履行管理は苦手なのかとふと思う。大沢は続けて、
「俺の名前で差し押さえを執行する。」
 和には
「棚田から電話が来ても一切話すな。俺が直接話す。差押について聞かれても「大沢が独断でやったらしい」とでも言って知らなかったことにしろ。」
 と告げ、早速銀行等に差押に出向いた。
作品名:徴税吏員 後編 作家名:虚業日記