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愛してる

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愛してる



幸子は結婚して以来、三年間、夫が「愛している」という言葉を言わないのが不満だった。夫は殆ど毎日会社からまっすぐ帰ってくるし、優しい。それでいてこんなことにこだわるのはおかしいと自分ではわかっているのだが、それは頭の隅にこびりついて離れない。

新婚時、甘えて「愛してる?」と聞いたが、夫は優しく抱きしめてくれたので、返事は聞かず終いだった。
照れているのだろうか? そう思ってみたが、プロポーズだって、照れずに言ってくれたし、一緒に外出した時だって手をつないだり、肩を抱くようにして人混みを歩いたりした。だから幸子は夫が照れ屋ではないと思っている。

ボキャブラリーが少ないのかということも考えたが、夫は有名大の文学部出身である。読書量も同年代の人間の二倍は読んでいるはずだ。それに「愛してる」が日常に溢れている外国映画やテレビドラマを見ているし、どうしてもわからない。

幸子は言葉を変えて「ねえ、私のこと好き?」と聞いてみた。
「ああ、好きだよ」と「好き」という言葉は照れもせずにすぐに返ってきた。

ある日、夫の浮気の痕跡をみつけ、問いつめた。
夫は「すまない、もうしない」と頭を下げた。
幸子は気が済まない。荷物をまとめ、家をでようと戸を開けた時、後ろから「幸子」と呼び止められた。

そして

「愛してる」という言葉が聞こえた。


作品名:愛してる 作家名:伊達梁川