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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「夢の続き」 第十六章 ゆれる思い

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気持ちが甦っていたんだと思うよ。だとしたら、間違っていた、と言う意味は、戦争を始めたことに対する反省の気持ちだったんだよ」

「うん、そうだね。真一郎おじいちゃんは軍人に憧れて日本国のために敵と戦うことを望んでいたと聞かされていました。その当時の状況を考えると
多くの成年男子は同じだったと思うんです。実際に戦場での思いは少しずつ変化をしてきてこんな戦いだったのか、と言う疑問符が付いたんだと
思います。目的の敵を倒すだけでなく、略奪や強姦、無差別の殺戮、放火、破壊。それは自分の考えている戦い方と違っていたことでしょうね」
「私だって気がおかしくなるような場面に何度も出くわしてきたよ。そのたびに、これは命令なんだ、と自分に言い聞かせて実行していた。
正しいとか間違っているとかの判断なんて誰にも出来やしない。倒すか倒されるか・・・日本兵以外の人間は全て敵兵といった見方に変わっていたからね」
「それは戦場にいた人間しか経験しないことだから、批判されてもどうすることも出来ませんね。戦後にかけられた戦犯裁判でも現地人を
敵兵と見間違えて殺してしまった日本兵を有罪にしましたからね。悲しいことですが、人を信頼することの難しさも教えられますね」
「そうじゃ、平和な今の時代でも同じことが言えるぞ。せめて家族だけでも信頼して愛し合わなければ空しいからのう・・・」
「ええ、そうですね。広島に来て佐々木さんと出会えて、こうして家族になれることも真一郎おじいちゃんの思いが叶ったと思うようにします」
「貴史くん・・・泣かせるようなことを言うなよ、わしはのうあんたが初めて声を掛けてくれた時に運命みたいなものを感じたんじゃ。本当じゃぞ。
修司だって由美さんを見たときに同じように運命を感じていたと思うぞ。もうわしの傍を離れんでくれ・・・今は生きがいに感じておるでのう」
「おじいちゃん・・・父親に話してきっとここで暮らせるようにします。千鶴子おばあちゃんは淋しがるかも知れませんが、父と暮らせば少しは
気持ちも収まると考えます」
「そうか、千鶴子さんのことがあったのう・・・」

東京に帰る新幹線の中で恭子は貴史の隣に座ってきて手をそっと握ってきた。
「なんだい?恭子・・・洋子に怒られるぞ」
「恭子、一人ぼっちはイヤ!・・・お兄ちゃんに着いて行くから」
「行くならみんなで岡山に行くんだから、心配しなくていいよ」
「ほんと?嘘じゃないよね?」
「ああ、恭子と離れるなんて・・・しないから。手を離してくれないか、洋子に怒られるから」
「お兄ちゃんは恭子が・・・嫌い?」
「何を言っているんだいまさら・・・大好きだよ」
「だったら・・・こうしている。兄弟だから変じゃないでしょ?」
「まあ・・・な。これ以上は無しだぞ、いいか」
「うん!」

洋子は見て見ぬ振りをしていた。由美が耳元で「恭子は淋しがっているだけだからあなたは大きな気持ちでいてあげて」そう言った。
恭子は初めて広島で貴史を見たときから「カッコいい人」だと思ってきた。兄になってその想いはいっそう強くなっていた。
年上の彼と付き合い始めたこともその影響があった。同い年の男子は子供に感じられてしまうからだ。早く大人になりたいと思う気持ちが
伝わってくる貴史には少し心配事のように感じられていた。それは洋子も同じだったからだ。

「恭子、彼のことは忘れられるのか?岡山へ行ったら会えなくなるぞ」
「・・・お兄ちゃんがいるから、淋しくないよ」
「俺は、彼とは違うぞ」
「でもずっと傍にいてくれるんでしょ?」
「まあ・・・兄弟だからな。お前が結婚して出て行くまではな」
「結婚か・・・お姉ちゃんとは直ぐに結婚するの?」
「解らない。今は受験のことが先だからな。学生の身で子供を育てるなんて出来るのだろうか、って思うよ」
「恭子が手伝うから、大丈夫だよ。赤ちゃんって可愛いだろうなあ・・・」
「欲しいか?」
「恭子が?」
「ああ」
「お兄ちゃんの子供なら・・・欲しい」
「バカ!何言ってるんだ。今の言ったこと洋子やお母さんに聞こえたぞ・・・」

顔色が変わった洋子を貴史は見逃さなかった。

「洋子、恭子の冗談だからな、困った奴だ」
「恭子、こっちに来て。席替わって頂戴」
洋子は貴史の隣に替わりたいと恭子に言った。
「イヤ!お兄ちゃんの隣がいい」
「じゃあ俺が代わるよ。お母さんこっちへ来て」
恭子は泣き出した。周りの席に座っている人たちが一斉に振り返って見ていた。兄弟喧嘩でもしたのだろうと思われていたようだが
修司も由美もどうして慰めたらいいのか困っていた。
洋子が恭子の傍に来てハンカチで涙を拭ってやった。

「泣かないで、恭子。お姉ちゃんきつく言っちゃったねゴメンね。お兄ちゃんが好きなのよね・・・いいのよ甘えて。でもね
貴史を困らせるようなことは言っちゃいけないよ。嫌われちゃうから。可愛くしてないと男の人は嫌いになっちゃうのよ。解った?」
「お姉ちゃん・・・恭子はずっとずっとお兄ちゃんが好きだった、ゴメンなさい・・・お姉ちゃんの事解っていたのに。怒らないの?」
「怒らないわよ。あなたの気持ち痛いほど解るもの。二人で好きでいればいい・・・お姉ちゃん貴史と結婚して赤ちゃん作るけど
ずっと傍にいてくれる?」
「うん!ずっといる・・・お姉ちゃん、ありがとう。恭子はわがままね・・・一人だったからきっとそうなっちゃったのね。何でも自分の
ものにしたいって考えちゃうから。これからはお兄ちゃんを困らせないから・・・可愛い妹で居たい」
「偉いのね。直ぐにそんな風に考えられるなんて。感心したわ。お姉ちゃんなんか本当にわがままだからよく貴史に叱られるのよ。
恭子のほうが、ずっと大人見たい。おっぱいも大きいし・・・ね?」
「イヤだ、恥ずかしい・・・お兄ちゃんの前で言わないで」
「あれ?見られて恥ずかしくないって言ってたの誰かしら?」
「そんな事言ってないよ。お父さんが本気にするじゃない」
「見てるわよ、怖い顔して・・・」
「あ〜ん、お姉ちゃんの意地悪!」
「ハハハ・・・恭子、これからは泣いちゃダメ。幸せな時以外に涙を流さないって約束して」
「うん、約束する」
「お姉ちゃんと一緒に座ろう」
「そうする」
洋子は貴史と席を替わって横に座った。そしてしっかりと恭子の手を繋いで話をしていた。