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てっしゅう
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「夢の続き」 第十六章 ゆれる思い

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第十六章 ゆれる思い


二日の朝になった。今日は東京に帰らないといけない。朝から貴史は勇介とずっと話しこんでいた。

「おじいちゃん、戦争には二つの面があると思うんだ。一つはそうなる地図と言うか世界観。もう一つは実際の行為。そのどちらも
責任の所在があいまいにされてはいけないって感じるんだけどどう思う?」
「おお、難しいことを言うな・・・たとえば日本が真珠湾を攻撃した地図を考えろって言うことだな?」
「そう、そうせざるを得なかった理由だよ。それがその時の世界観に不自然じゃなかったら侵略戦争じゃ無かったって言うことになる。
もし多くの国が不快感を感じる行為だとしたら、大東亜共栄圏構想は形を変えた植民地政策構想に思えるんだけど」
「ドイツは確かに侵略戦争をした。許されることではなかったから世界中から叩かれた。日本は同盟国だったから批判しなかったけど
最後の方は暴走して困っていた節があったね。ロシアに侵攻したのはまずかった。日本はやはり中国との問題を早々にけりをつけて
アメリカと対峙しなければいけなかったと思うよ。泥沼化する満州と中国の戦争は国が考えているより現場で歯止めが利かなくなってしまって
いたのだろうね。軍と言うのは厄介で時に間違っていても命令だと進んで行ってしまうんだよ」
「それは現場の指揮官の裁量だね。みんながそうだったわけじゃないと思うよ。警察なんかもそうだけど、暴走する奴はいるよ。
相手が国だから始末が悪い。やったらやり返される。身内の犠牲は相手の犠牲より重く感じる。復讐心がさらに攻撃の手を強くする」
「そうだね。キミが言った途中で止めるという和平交渉は簡単じゃない。国家の元首が一大決心を持たなければ出来ない。そういう意味では
東条にその器量は無かったと思うね」
「勝てると思えなかった戦争を始めたのですから当然そうでしょうね。やはり天皇の存在ですね」
「今なら言えても、あの時代に天皇への意見など出来ることじゃないんだよ。それに終始戦争には反対の立場でおられたからね」
「なら、止めろ!って言えた筈ですよね。東条を初め軍部が聞かなかっただけじゃないんですか?」
「止めろとは発言されないんだよ。昔からの習慣で会議でも一言も言われることは無いんだ。ただ、最後の御前会議で自ら発言されて
玉音放送になった」
「これが日本国の限界って強く感じられたのですね。もう少し早ければ原爆も無くて済んだのに」
「それが歴史だよ。悲しいけど明治維新のときも、徳川の天下統一の時も、多くの犠牲者が出た。まして外国との大きな戦争で
あれほどまでに打ちのめされなければ終われなかったんだよ。国内が焦土にならなくてまだ良かったと思える。なるべくして始まった
戦争だったけど、終わり方はまずかった。アメリカだって一年ぐらいで終わると考えていたようだからね。日本が降参しなかったことが
本気にさせた理由だったね」
「俺は真珠湾攻撃は間違っていたと思うよ。脅しをかけるには幼稚なやり方だったと思う」
「幼稚?・・・う〜ん、その表現は解らないな」
「鼻先を突っつくにしては、読みが甘いって感じるんだ。背水の陣で臨んだのなら上陸して占領するのが作戦だよ。
アメリカ本土は遠い。航空機だって飛べる距離じゃない。ハワイはその点中継基地として打ってつけだと考えるけど、そうじゃなかったの
だろうか」
「南方に侵攻することが一番の目的だから、真珠湾攻撃は陽動作戦だったと思うよ。日本本土への攻撃を避けるために叩いたんじゃないのかな」
「確かにある程度の打撃は与えたと思うけど、アメリカ本土の生産能力にはまったく影響なかったから、いうなれば蚊に刺された程度だったと思うよ。
俺だって刺した蚊を見つけて叩き潰すぐらいの執拗さはあるから、アメリカは蚊退治を真剣に始めちゃった観があるね」
「蚊?か・・・甘く見られたね。確かにヨーロッパ戦線に主要部隊を派遣していたから、太平洋地域への人員はいわば寄せ集め見たいな
兵隊だったようだね。それは日本軍も同じだったけど、規律なんか戦場では通用しなくなるほど酷い状態だったらしい。容赦なく日本人を見たら
殺していたし、命を捨てて襲ってくる日本兵に恐れをなしていたからね」
「おじいちゃん、俺は命をかけて国家や家族のために戦っていた兵隊さんを悪くいう気は無いし、戦争と言う極限状態に置かれた人間の心理を
考えたら、残虐とか行き過ぎとか言うことは諌められないよ。殺さなければ殺されるだろうからね。ゲームじゃないからやり直しは無い。
そうした考えの総括が原爆攻撃だよ。やはり、日本軍はハワイを占領して早々にアメリカ本土攻撃をして、南方の補給路を確保した時点で
和睦するのが得策だったと思うね」
「貴史くん、簡単に言うけどそれは無理だね。すでにアメリカ大統領は内密に日本を叩き潰しておこうと思っていたからね。
真珠湾が無くても何か理由をつけて戦争を始めたよ。だから宣戦布告無しに攻撃を仕掛けた日本に拍手したと思うよ、心の中では」
「宣戦布告はしたはずだよ。手違いで一日遅れたんだよね」
「それもアメリカには好都合な理由になったね。こんな事言ったら不謹慎だけど、初めからアメリカに有利な戦いになっていた、そんな気がするね」
「有利に?なるほど、アメリカ国民に日本憎しと思わせられた、と言うことだね。議会制民主主義の国だったから大統領が勝手に戦争を始めることが
出来ない。なんとしても国民の後押しが必要だった。その空気を作ったから議会の反対も無かったっていう訳なんだね」
「ジャップ!と呼んで日本人は差別されてしまっていた。それまでのアメリカはいろんな国の人間を受け入れてお互いの立場や宗教や国家観を
尊敬しながら暮らしてきた。それが世界一豊かな国であるという自負でもあったんだ。しかし、旗色は一変して日本人憎しに変わった。国民の
意識は嘘のように差別意識に変わる。世界中どこの国もそしてどこの国民も同じなんだ、それが人間の悲しさだと考えると、戦争責任なんて
誰にも問えないよ。そう・・・思える」

勇介はそう話すと涙をそっと拭いた。
貴史は「戦争責任なんて誰にも問えない」そう言った勇介の言葉を繰り返し自分の中で推敲した。

戦争体験者から聞いた話の中で、国民にもその責任はあると聞かされたことを思い出していた。もしそうだとしたら、犠牲者でない人たちにも
問えないと言うことなんだろうと考えた。元を質せば攻撃を仕掛けたのは日本軍、日本人なのだから。謝罪こそすれ、間違っていなかったなどと
胸を張って言える立場ではない。

「俺は、真一郎おじいちゃんが残した、間違っていたという言葉の続きの意味を考えてきた。千鶴子おばあちゃんに優しく出来なかったとか
子供の世話をしなかったとか言うことじゃなくもっと大きな意味だとずっと考えてきた。でも、本当は自分が戦争をした日本国民として謝罪した
かっただけなんじゃなかったのか、と思えるようになっているんだ」
「貴史くん、キミが思うように真一郎さんは戦いを通して実際の戦争を見て、軍人としての誇りとか精神とかより、平和を愛する日本国民としての