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冒険者という職業

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なに、奢るだって? そいつはどういう了見だい、こちとら素行が悪いと店の亭主にため息つかれる荒くれ者で、ここいらじゃちったぁ顔の知れてるこの俺を捕まえて酒を奢るたぁ、いくら馬鹿な俺でも警戒くらいはするってもんだぞ。
 ま、酒代くれるってぇなら素直に貰ってやるよ。ちょうど飲み直したいと思ってたところだったからな。


 かぁ、うめぇな。酒ってもんは本当に命の水だぜ、こればかりは女を抱いたって味わえやしねぇ。ほら、お前さんも飲んだらどうだ、自分の金だろうと酒にはかわりねぇんだぜ? おいおい、なかなかに飲めるじゃねぇか、気に入ったぜ。


 お前さん、俺になんか用なんだろ? こう言っちゃ悪いが、俺はそこいらの馬鹿どもよりは世界を知ってるからよ、世界の講談話も何個かこさえてる、酒のつまみがてら話してやってもいいぜ。
ま、お前さんの用ってぇのを聞いてからでかまわねぇが、大抵はな、俺のところに呼んでもいねぇのに来る男は話好きか、衛兵くらいなもんでよ。
 どうみたってお前さん、捕まえにだか注意しにきた衛兵には見えねぇし、俺もまだ暴れてないからな。おっと、過去の出来事を掘り返すこともあいつらは平気でするんだったな。
 だからよ、勝手にお前さんの用ってもんを想像して先手を打ったってわけよ。当ては外れたがな。


 はぁ? お前はそんなことのために俺に奢るなんて言ったのか。今の若い奴はえらく羽振りが良いもんだな。にしても、何を考えているのやらってな。いまどき職なんざ、探せばいくらでもあるだろうに、職人の徒弟にでもなって技術盗めば身体が動くまで生活に困ることも無いんじゃないか? まぁ、余計な世話だって話だよな。


 俺が冒険者かだって、だったな。そりゃ、こんな見てくれで帯剣している男は大抵、強盗みてぇな悪事を働く賊野郎か、冒険者をやっているかのどちらかだな。俺としちゃ残念でならねぇが冒険者をやってるさ。
 この店で悪事なんざ早々出来るもんじゃねぇ。ここの店は金をすぐ隠しちまって盗む事がちぃとばかし難しい。それによ、亭主の顔をよく見てみろ、意地汚そうな顰め面(しかめつら)な上にハゲで顎髭蓄えてよ、悪い顔してるよな。俺の顔が亭主の前じゃ霞むってもんだ。
 あれでも昔は相当名の売れた冒険者だったっていうんだからかなりのワルだったんだろうな。そんな亭主がいるんだぜ、並みの賊野郎たちは手を出そうなんざおもわねぇよ。
 なんだったら、亭主に紹介しようかい? 俺なんかより場数は踏んでいるそうだぜ、あくまで自称だがな。

 あん? 俺からどうしてもお話が聞きたいってか、いやだねぇ、指名を受けるなら綺麗な女か大金積まれるかの二択ってぇのが相場と決まってるもんだぞ、何が悲しくて男の指名を受けて世間話せにゃならんのよ。これならまだ酔っぱらいにねつ造講談吹き込んだほうがおもしれぇぞ。


 ほぅ、えらく羽振りが良いじゃねぇか、赤の他人に銀貨を軽々と差し出すなんざ良い御身分のお方ですかな? ま、ありたがく受け取るがよ。
 そうだな、率直に言うがお前さんみたいな男には向いていないと思うがな、冒険者。
 まぁ男が冒険者に憧れるのは俺だって否定はできねぇ。だがよ、冒険者だけはおすすめはできねぇな。
 若い奴には冒険者が良い、若者に旅させろなんて言う奴もいるが、無責任な話だぜ? 実際、そんな事を吹き込まれた野郎が冒険者になってるのを聞いた時は同情したもんだ、この俺ですら憐れと思ったんだからよっぽどのことだぜ?
 俺から言わせればそんなことをのたまう奴はな、若い奴が嫌いなんだよ。なにが旅させろ、だ。だったら隊商にでもひっ付けるだけで良い、奴らにちょっと金渡せば笑顔で迎えてくれるわ、善人なら無償で旅させてくれるってんだからな。それに隊商のほとんどが旅慣れてるから、恵まれている旅の案内人も一緒くた。わざわざ冒険者なんていう職業に就かせる必要はないってもんだろ。

 あれだろ、そういう奴らは冒険者に就かせて消えてほしいと思っているんだよ、好きな女が旅させたい奴に惚れてるとか、跡継ぎを追い出せば家を乗っ取れるとか、理由なんざ馬鹿みたいにでてくるってもんだな。
 まぁ、お前さんがどうして冒険者になりたいかなんざ興味はないからよ、どうしてもなりたいっていうんなら、止ねぇよ。


 今の冒険者は傭兵と似ているようで違うってことは判ってるな? 組合(ギルド)も別々だし、請け負う仕事も重複してるが、まぁ得意分野の違いくらい女々しい差なんだが、まぁそれは良い。
 もとをたどればどちらもおんなじ傭兵っちゅう戦闘で金稼いでる野郎だったんだがな、戦争が起こらない年が長く続いた時に、傭兵は仕事を失って賊紛いの傭兵が溢れだした。そうした奴らを国や領主が討伐したりするんだが、平和なときこそ領主や王は多忙らしくてな、思うように討伐が進まなかった。だったら職のない浮浪者よりも戦い慣れしている他の傭兵に依頼しようじゃないかって話になったのが最初らしいな。
 そこからあれよあれよと色々な仕事が増えた、まぁ要するに便利だったから仕事が回ってくるようになった。
 傭兵狩りをしている傭兵はな、金さえ出せば何だってやったからな。一時期は暗殺やら人攫いも受け持つところがあってえらく問題にもなった。でよ、これじゃあ賊紛いの傭兵がのさばっていたころと変わらないじゃねぇか。便利だが悪事は平気で働くから困ったもんだ。ならどうする。ギルドを作って正式に管理しよう。そうして出来たのが冒険者ギルドってなもんだ。


 なぁ、判るだろ? もともとは悪人のたまり場だったのが冒険者。だから年寄りはみな冒険者を嫌っている。
 年寄りが冒険者を嫌えばどうなる? そうだ、村の頭脳を担っているのが年寄り連中だからな、頭が嫌いだと判断すれば村人もそれに毒されていくってわけさ。恨まれるし、何か物が無くなるとすぐに疑われる。そのくせ、冒険者は賞金稼ぎでもあり、害獣駆除や隊商の護衛、何でも来いっていう便利屋だ。誰もかれも必要としている仕事があるし、金さえ払えば大抵の仕事は片づけてくれる。
 領主や国が手を伸ばさないような村や都市の雑務なんかも喜んでやる。なぜかっていうと、お前さんみたいな新人が仕事を覚えるにはそういう雑務が一番良いからだな。
 恨まれて体の良い使いっぱしり扱いを受けながら、一人前の冒険者になって行く。一人前になるってことはある程度名前が売れ始めるってことだ。仕事は指名で入ることもあれば、領主から登用の誘いだって来るから夢は広がる。果ては騎士に、なんてな。実際はそんな都合の良い話でもないからな。


 なぜって、お前名前が売れるってことは妬む奴、恨む奴が増えるってことだぜ? 収入が良くなれば金回りも良くなる。金が増えれば危険も増える。
 国も便利屋の冒険者を必要だと感じているから他のギルドよりも贔屓するってもんだから、組織単位でも妬まれているしな。
作品名:冒険者という職業 作家名:88