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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「夢の続き」 第十五章 恭子の想い

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第十五章 恭子の想い


「ボクは貴史がここで暮らしたいなら反対はしない。片山さんのご両親が許されるならそれでいい。洋子はボクたちが
反対しても着いて行くだろう。お前の気持ちは解るが許してやってくれないか」
「まだ高校卒業したばかりですよ。貴史さんも大学生だし・・・子供なんて生んで育てられはしませんよ!」
「由美、聞きなさい。子供の事はさておいて、貴史が岡山大学に合格したらここで世話になる事は反対しないよな?」
「それは片山さんのご両親が決めることですわ」
「お前の気持ちを聞いているんだ」
「それは・・・本人の気持ちを大事にしたいから反対じゃないですよ」
「そうか、じゃあ洋子が貴史に着いて行きたいって言うことはどうだ?」
「恭子も淋しがるし、結婚が決まるまで手元から離したくは無いわ」
「恭子はどうだ?洋子が居なくなっても大丈夫か?」

下を向いて聞いていた恭子は淋しさを堪えきれなくなっていた。

「お姉ちゃんと一緒がいい・・・」
「修司さん、そうでしょ?この子の気持ちも考えてあげてよ」
「洋子の気持ちは考えなくていいのか?」
「そうは言ってないわ。この話はまだ決まったわけじゃないから、よく考えましょう」
夏枝は聞いていてそれぞれの意見はどれもその通りだと思った。きっと勇介が自分がそうしたかったから押し付けたのだと
気付き始めた。

「おじいさんはね、私が淋しがっていると思って貴史さんの話をしてくれていたのよ。一緒に暮らせたらいいね、って。
戦争の話で気があったのか、いまどき珍しい親思いだし、しっかりとしている青年だって。修司が東京に行ってしまって
一番淋しかったのは私じゃなくておじいさんだったのよ。許してあげて、わがまま言ったようで。あなたたち家族がバラバラに
なってしまうようなことは決してしないで・・・お願い」

夏枝のこの言葉に由美はあることを思い出して泣いてしまった。
広島で初めて洋子と三人でホテルに泊まった日、洋子が淋しいと思っている以上に自分が淋しいと感じさせられた、貴史の
言葉を。
「幸せになって欲しい」
優しくそう言ってくれた貴史が思っていることをさせてあげたいとの気持ちもあった。

「由美さん、どうしたんじゃ。わしはのう、自分の好きで貴史くんに頼んだんじゃないぞ。おばあさんへの孝行でもない。
修司が居なくなった淋しさからでもない。よう聞いてくれ・・・
勉強の出来る環境と子育てが出来る環境はここしかない、そう思うんじゃ。都会より田舎のほうが自然でのびのび暮らせる。
洋子さんの身体にもいいぞ。本人に聞いて決めてやってくれないか」
「お義父さん・・・洋子は18ですよ」
「だから聞いてやって欲しい」
「洋子、あなたはどう思っているの?」
「お母さん、私は進学しない。就職もしない。貴史のお嫁さんになって子供が欲しい・・・早く欲しいの」
「何故そんなに急ぐの?少し就職してからでも、進学してからでも遅くないじゃないの」
「戦争の話を聞いて諏訪に行っていろんなことを学んだの。今は平和だからそれほど望まないようだけど、女は子供を生んで
育てて、好きな人と暮らすことが幸せなの。恭子は淋しいかも知れないけど、私の気持ちを解って欲しい」

修司は正直迷い始めた。洋子が結婚と出産を望んでいること、暮らしの全てを勇介の経済に頼らせることなどが
理由だった。

「修司、いっそうここにみんなで引越ししてこないか?仕事は探せばいくらでもあるぞ。こんな時代じゃ、人手不足みたいだでのう」
「東京の家を手放して・・・と言うことですか?」
「そうじゃ。近頃土地は値上がりをしておるようじゃから、売ることは簡単じゃろう。ええ機会かも知れんぞ」
「人事のように言わないでくださいよ・・・住み慣れたところなんですから」
「お前にとってはここの方が住み慣れとるじゃろ?違うかい」
「昔のことですよ、それは」
貴史が聴いていて意見を言った。

「おとうさん、いいかも知れませんよ。恭子も高校へ入るタイミングだし、これから物価も高くなって東京は住みにくくなりますから
絶好の機会になるかもしれませんよ」
「知ったようなことを言うね」
「図書館で会ったおじさんがそう言ってましたからね。株と土地が値上がりして、一般人には住みにくくなるって」
「売り時って言うことかい?」
「それは解りません。東京に戻ってから考えてください。この話はこれでお終いにしましょう。洋子、ちょっと遊びに出かけようぜ」
「貴史、お前のことなんだぞ!最後まで話さなくていいのか?」
「おかあさん泣いちゃって話せなくなるような気がするからやめておくよ。俺だって決めちゃった訳じゃないしね」
「そんな気持ちなのか?いい加減だぞ」
「いい加減じゃないよ。それぞれがもう一度考える時間を持つって言うことだよ」
「ならいいけど・・・じゃあ各自寛ごうか」

「貴史さん、遊びに行くなら恭子も連れて行ってあげて。今は家族でしょ?」
「おばあちゃん・・・そうだったね。恭子、行こう」
「うん!お邪魔はしないから」
「また・・・生意気な」
「お姉ちゃんいつもそう言う・・・」
「洋子、いじめるなよ」
「いじめてなんかいないよ。人聞きの悪い・・・」

家を出て行った後姿を見て勇介も夏枝も三人が仲の良いことを嬉しく感じていた。
洋子は貴史と手を繋いでいる。そして恭子も洋子と手を繋いでいた。

「修司、あの三人を見ろ。ここだとのびのび暮らせるぞ。考えてくれんか?」
「お父さん・・・由美の気持ちも考えないといけませんし」
「のう、由美さん・・・女の幸せは年じゃないぞ。今が洋子さんと貴史くんのタイミングじゃぞ」
「お義父さん・・・修司さんがいいのならわたしに依存はありません」
「なんと!そうか・・・やっぱりあんたは普通の女子と違うわい。修司が見初めただけのことがある」
「それも貴史のお陰・・・あの子になんだか振り回されているような、言い方が悪いけどそんな気がする」
「由美さん、それは違うぞ。貴史と由美さんとの縁じゃ。そう感じたことは無いか?」
「お義父さん・・・それは・・・言えません」
「なんだい?由美、なんか訳ありな言い方だぞ」
「ゴメンなさい・・・深く考えないで。縁を感じるって言うことがあると思っただけだから」
「そうか、ならいいけど」

年が二人を親子にしていた。もし近かったら・・・きっと夫婦になっていただろう。いやなっていて欲しかったと由美は誰にも話せない
想いを持っていた。

平成2年の正月を迎えた。初詣にみんなで近くの神社に行った。たくさんの人手で賑わっていたが、赤ちゃんを連れている
お母さんを見ると洋子はじっと見つめるようにしていた。修司にも由美にもその思いは伝わってくる。
まだ40代でお爺ちゃんとお婆ちゃんになるのか、と思うとぞっとする。絶対に孫には修ちゃん、由美ちゃんと呼ばせることにしようと
話し合っていた。由美は洋子のためにもここで一緒の方がいいと思えたし、赤ちゃんを産むことを恭子に見せることもいいことだと
考えていた。

おみくじは大吉で全てが叶うと書いてあった。
「あなた、これ・・・大吉よ。願い事叶う・・・西の方角が吉とあるわよ」