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「姐ご」 10~12

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 瓦屋がまた、手招きをしています。
装蹄師が自分を指さしてから、やがて覚悟を決めて耳を差し出しました。



 「煙草にビールを買ってこいだと・・・
 何を考えてんだ、このくそ爺。
 あの世からの生還記念じゃ仕方ねぇ、
 俺は苦みのあるキリンビール一辺倒だが、兄貴は何がいい?
 サッポロか、サントリーか、
 同じキリンでもいいのか? 」



 瓦屋が、またまた手招きをします。
まだ何か頼み忘れでもあるのかと、装蹄師が瓦屋の口元に耳をよせました。




 「ウイスキーと、若い女も用意しろだぁ~、
 いい加減にしろっ、
 俺も、ひと仕事しに行ってくる。
 後は勝手にしろい」



 まったく懲りずに、さらに瓦屋が手招きしています。
怪訝顔の装蹄師が、すっかりとあきらめ顔で再度、耳を差し出しました。



 「女は、なるべく若いのを、2人用意しろだって。
 何寝ぼけているんだか、この死にぞこないが・・・
 やっぱり帰る! 」



 装蹄師が、病院中へ響き渡るほどの大音響でドアを閉めました。
声にならない瓦屋の笑い声が、静かになってしまった病室の中で、
空気だけを震わせています・・・



 瓦屋の病名は脳梗塞です。
言語障害は残りませんでしたが、左半身の麻痺は残りました。
それはすでに、ゴルフで違和感を覚える前から初期症状が発生していました。
目まいや立ちくらみなども有りましたが、瓦屋は、ただの疲れの蓄積だろうと
あまり気にとめませんでした。



 そのうちに片方の手や足の感覚が鈍くなってきて、なぜか力も入らなくなってきます。
さすがにただ事ではないと思いはじめましたが、そんな症状も
数時間もするとケロリと元に戻ります。
違和感があっても、症状が過ぎてしまえば意にもかいせず、
またいつものように呑みに出かけ、愛人と戯れ
寝不足のまま仕事にも出かけます。



 よく有る脳血栓による一過性の症状でした。
一過性とは血栓などが脳の動脈で詰まって、
血液の流れが一時的に悪くなることで
脳内で引き起こされます。
症状は脳梗塞と同じなのですが、症状が数分から数時間で収まります。
しかしこの一過性も再発する確率が非常に高く、
数年間のうちにまた必ず現れます。




 脳梗塞は、脳の血管が血栓や異物によって詰まることで
血液が流れなくなり、酸素や栄養が供給されなくなることで生じる病気です。
生活習慣病や動脈硬化などが原因などともいわれてます。



 一命は取り留めたものの、瓦屋の入院は2カ月ほどに及び
リハビリの継続を条件に退院を許可されました。
しかし自力ではまだ、歩き回ることができません。



 姐ごと装蹄師に肩を借りて
びっこを引きながら、不自由な足で、迎えの車まで瓦屋が歩きます。
すっかりと顔馴染になった看護婦さん2人が玄関まで見送りに来てくれました。



 「おう、
 また近いうちにくるから
 浮気なんかするんじゃねえぞ。」



 と、軽口をたたいている瓦屋を、すかさず姐ごがたしなめます。



 「いい加減にせんかっ、このどスケベ」


 「あれ、姐ご、妬いていんのかい。
 おらぁしょんべん臭い小娘よりも、やっぱり年増が好みだな。
 頼むぜ、姐ご。
 退院祝いの一発を、是非お願い・・」



 それを言い終わる前に、
姐ごが後ろから思い切り瓦屋の背中を蹴りつけました。
瓦屋がもんどりうって、車の後部座席になだれこみます。


 「いい加減にしろ、この色ボケ!」


 まさに問答無用で、姐ごが車を急発進させました。





(11)へ続く


作品名:「姐ご」 10~12 作家名:落合順平