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Life and Death

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キャラ紹介用掌編


そのいち「人は簡単にアンデッドにもイモータルにもなる」

 死人に口無しとはよく言ったものだ。
 姉の顎が吹き飛んでいるのを見て、妹は微笑む。本当に口がないのだから、笑えて来る話だ。
 真っ赤な涎を垂らしながら、姉は白目を剥いている。口にマグネシウムの塊を突っ込むなんて、怖いことをする奴もいるもんだ。
 その双子の姉妹は、双子だけあって容姿は似通っていた。垂れ目がちの愛嬌のある顔立ちが、二つ、向き合っている。二人とも髪の毛を肩口で切りそろえ、姉の方は髪を白く染め、服は黒の長袖ワンピース、妹は黒檀のような黒で、服は逆に白の長袖ワンピースで、白めの肌も相成り白黒映画か白黒のこけしが二つ並んでいるようだった。ただし、姉の口には真っ赤な花が咲いていて、二人の肢体には縄が通してあるが。
「姉さん、知ってますか……クチナシの花言葉は幸せを運ぶとか、清純とか私は幸せとか、胸に秘めた愛とか、そんな可愛らしい女の子みたいな花言葉なんです……」
 そう、妹はその場に最も不適当な台詞をのたまう。
「あ゛ーっ!」

 今のうめき声、この妹の方が発したわけではなかった。姉だ。
「うるさいのです……口が裂けようが死ぬわけではないので黙ってください……」
 そうだ、この姉妹、何があろうと死なない体を持っている。といっても、火口に飛び込めば流石に不味いだろう。死ななくても、永遠に熱い溶岩に溶かされ続けるのは確実だ。しかし、とりあえずは事故病気で死ぬような身体ではない。
「いつ見ても気持ちが悪いな」
 そうぼやいたのは、デスクに腰掛けた体格の良い背広の男。男は煙草を燻らせながら言う。
「だから、言ってるじゃないか、その身体になる秘密を答えれば逃がしてやるって」
「……これはですね、『口が裂けても言えない』という……姉の身体を張った渾身のギャグな訳、ですよ……」
「あ゛ーっ!」
 違うと、姉は抗議する。抗議するのだけど、死人に口無し。口が無いのだからこうやって唸ることしかできないのが歯がゆい。歯も無いわけだけれど……。
「だーかーらー、言ってるじゃないですか……。死ねなくなるか……、生きたまま死ぬかのどちらかしか知らないって……」
「あのねぇ、それじゃ困るんだよ。こう、もっと、具体的な方法をね? そうじゃないとおじさん、偉い人に怒られちゃうわけで」
 男はヤの付く有限会社の社員だ。何でも、不老不死を探しているとかなんとか。教えてあげたいのは山々だったが、その実姉も妹も、自分たちがどうしてこういう身体になったのか分からないのだ。
 ――いや、原因なら分かっているのだが、その原因は一体どのような手段を使って姉妹らを死なずの身体に変えたのか、彼女らは分からないのだ。
 魔女というモノがいる。正確にはネクロマンサーと言うらしいが、彼女らにとってはどちらでもよかった。そのネクロマンサーが姉をアンデッドに、妹をイモータルに人体改造したことから、この事件は始まった。
 アンデッドは死に損ない、イモータルは不死者という意味がある。不死者をアンデッドと呼ぶ書物や作品も多いが、正確にはイモータルがその不死者である。アンデッドは死に損ない、ゾンビやマミーなどを指し、イモータルはノーライフキングと呼ばれるモノなどを指す。大体RPGではゾンビやマミーはアンデッドモンスターの下位クラス、ノーライフキングなどのイモータルを上位クラスのアンデッドとしていることが多いが、その実、それら二つは全く別の性質を持っている。
 アンデッドは死んでなお動く者、リビングデッドであり、イモータルは死を超越した者、つまり不死者である。
「まあ、譲ちゃんたちの話には興味があるけどね。何だっけ、生きたまま死んでるとか、死という結果が無いから死ねないとか、そーいう話」
「……まあいいです。姉はアンデッド……生きているという状態なのに死んでいるという結果を植えつけらていて、死んでいるものはこれ以上は死ぬことはないので死ねない……私は死という結果を剥奪されてしまい、私の中にはもう死という結果がないので死ねないと、そういうことです……」
「その辺が良く意味が分からないんだ、もうちょい、おじさんにも意味が分かるように教えてくれないか?」
「……そこのテレビで説明しましょう。本来テレビはONとOFF、両方の状態が変移する事によって点いたり消えたりします。姉の場合は、ONとOFF両方の状態を持っているのに動いている。OFFボタンは既に押されているのだから、テレビを消すことができません……私の方は、そもそもOFFという状態そのものがありません……だからテレビを消すことができない。私たちの状況を簡単に説明すると、そんなところです……」
 本当はもっとややこしい状態らしいが、妹も姉もその辺を説明されても理解できなかった。あの魔女、専門用語を連発する自称識者のように気が訊かなくて、非常に癇に障った。
「あ゛ーっ!」
「……いい加減、そこに転がっている顎を拾いやがれ、と言ってます」
「ああ、悪い悪い」
 無い物の再生は時間がかかるが、あるものをくっつけるのにはそれほど時間が掛からない。この辺もよく分からないところだ。あとは、歳を取らない身体なのだが、これは身体が劣化しないからなのだとか。劣化もまた緩やかに死を迎えることだから、劣化できない。逆に細胞のアポトーシスの類は身体が生きようとしているが故に自然的に発生するとかなんとか。
「もご、もごもご」
 口をもごもごさせる姿はさながら老婆のようだ。まあ、そんな姿も愛らしいと、妹は思う。
 ――む、これではまるで自分がナルシストの類ではないか。そういうわけではないのだが。
「痛いじゃないのよ。乙女の顔に傷を付けるなんて、男として最低よ!」
「そうは言われても、おじさんがやったわけじゃないし」
 この男は居残り組みで、姉の口にマグネシウムを突っ込んだのはこの男の仲間だ。こんな愛らしい姉にあんなことするなんて、いつか酷い目に遭わしてやると、妹は意地の悪い笑みを浮かべる。
「それに、もっと分かりやすくおじさんに不老不死の秘訣を教えてくれればこんな目に遭わないんだよ?」
「あのねぇ、だから言ってるでしょ。知ってたら教えてるって。そんなことよりお腹が空いたから、ご飯食べたい」
「お姉ちゃん、今さっきもその台詞で口を吹き飛ばされたの、覚えてないの……?」
 ――ああ、早くおうちに帰って姉に餌付けしたい。狂ったように尻尾を振るイヌのような姉を早く見たい。
 妹が妄想に耽っている時だった。ふと、姉は自分の手が血で濡れて、縄がぬめり始めているのに気付いた。
 これは、縄抜けチャーンスっ! にやけそうになるのを悟られないように妹に目配せをする。というか、にやけると頬が引き攣って激痛が走る。あと、せっかくくっ付いたのにまた顎が外れてしまう。比喩でも暗喩でもなく、頬が落ちてしまう。
 ……ダメだ、とうの妹が今トランス状態だ。一体何を考えてるんだ?
「お姉ちゃん……今日は首輪プレイがいい……」
「一体何を考えているんだっ!」
「イヌミミとシッポをつけてお散歩です……っ。夜の町を練り歩きましょう……」
「ちょっと待って。お姉ちゃん、流石にそれは部屋の中だけにしたいなっ!」
作品名:Life and Death 作家名:最中の中